ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー大江戸城麓・大広場ー

おれは腕を垂直に伸ばした。右京山は瞬時に戦闘体制になる。そんなやつに人差し指だけを立てていった。

「先にひとつ聞いといていいか?」

おれの待ったに右京山の顔はいっそう険しくなる。
とがった口で吐き捨てるようにいう。

「…なんだ?」

「お前の名前は?ずっと聞いてなくて気になってたんだよ。」

「……寅(とら)だ。右京山寅。」

「寅か…寅さんだな」

「黙れ!!ごちゃごちゃとつまらないことをほざきやがって……いくぞ、おらぁっ!」

会話を強制的に終わらせて寅はワン、ツー、と踏み込んで殴りかかるステップストレートを打ってきた。
おれは上半身をほんの少し後ろに退いて、右足を半歩前に踏み出した。右手でやつの拳を受け止め左手で肘の部分を浮かしあげて遠心力を利用して真後ろに投げた。右京山の巨体が宙を舞う。

頭から落ちていったが、地面につく瞬間に両手を着いてそのまま身体を丸めて数度の前転を行って、衝撃を完全いなして立ち上がった。他人から見れば、おれと寅による演武とも思える一連の流れ。それが本当の始まりだった。

右京山はステップを刻むどうやらヒット&アウェイの方らしい。おれも今度はちゃんと構えをとる。



小鳥遊堂店主(?)
小鳥遊悠
Style:???
VS
天狗党用心棒(?)
右京山寅
Style:ボクシング(スイッチファイター)



少し離れた場所では新が天狗を叩ききっているのを目の端に収めながら、おれは目の前のやつに集中した。気を抜けば喰らい付いてくる猛獣にも思ってしまうほどのプレッシャーがピリピリと皮膚に突き刺さる。

その獣が唸るようにいった。

「その構え……なんのつもりだ。」

おれの構えは自分の顔の前で両手を半掌(こぶしを握らずに半分だけ指を折る形)にして備えている。
つまり、がら空きなのだ。鳩尾(みぞおち)、肋、脾臓、心臓、そして脚、多数の急所が点在する胴体を敵の正面にさらしていた。護のは頭部のみだった。

右京山が唸るのも無理はなかった。これはどうみても挑発行為なのだ。ボクサーの打撃に対し頭部以外のダメージは耐える。苦痛(いた)みでは倒れない。苦痛(いた)みなら耐えてやる。好きなだけ打ってこいと誘っているのだ。

おれは口を開かなかったし、構えを変えなかった。
これでいい、これでしかいけないのだ。
そんな言葉を脳内で暗唱していた瞬間に電光のような打撃が飛んできた。

容赦無く鳩尾への一打、無慈悲に右胸への一打、そして、顔面への一打。身体への攻撃は、文字道理身体で受け入れた。顔へのパンチは右手で受け止める。

だが、狙いは外れる掴み取ろうとするも弾き飛ばされてしまう。おれの狙いに感付いた寅はすぐに後退して距離を空けた。猛スピードのステップに砂塵が舞う。
30/100ページ
スキ