ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:廊下ー

自身の仕合が終わってからやたらウロウロしている小鳥遊悠。一体全体どこに居るのかと雇い主の松永久秀がお目付け役として任を与えていた秘書代理の串田凛と城厘に尋ねた。

話を一緒に聞いていた義伊國屋書店の代表闘技者金田末吉と久秀が口をそろえていった。

末吉「寝てる?」

久秀「悠が?」

凛「そうなんスよ~フラッと戻ってきたと思ったら」

城「「疲れたからひと眠りしてくる」って……。」

折れた右腕を吊った氷川涼とムジテレビの代表闘技者の大久保直也が口を挟んだ。

氷川「まあ一回戦のあとだからな。」

大久保「疲れが溜まっとるんちゃうか?」

久秀「ええ…それならいいのだけどね……悠、仕合前にも寝てたのよね……体調が悪いのかしら……?」

大久保「いや~?そうは見えへんかったけどな~」



闘技ドーム内、人通りの廊下の壁に背を預けて座り悠は目を閉じていた。静かに深い眠り……しかし、その精神は眠ってはいなかった。

「そこ」は何もない、本当に何もなく白が広がる空間。拳を構えて目の前に対峙する者に語りかける。

悠『……よお。もう終わりか?まだいけるよな?おっさん。』

「フウウウゥゥッ。」

深い呼吸でクラウンチスタートの体勢に入ったそれは【測定不能】の男、室淵剛三。金剛と仕合をした闘技者である。世界最速の男が悠に向かって飛び出した。

両腕を胸の前でクロスさせてタイミングを計る。秒速で間合いを詰めた室淵は悠の頭を引っ掴むと全速度を乗せた膝蹴りをぶちかました。

頭だけ残して両腕から全身が弾け飛びそうな衝撃を金剛ノ型【不壊】で受け止めきる。

悠『ッ~~!!』

……コイツは飛び蹴りの後、一瞬ガードが下がる。

その一瞬の隙を逃さず悠はハイキックで室淵の頭を穿った。直撃を受けて顔が歪み砕けていく室淵はそのまま煙のように消滅した。

フッフッと荒い呼吸を整える悠の背後に別の影が現れる。両腕に死神の刺青が入った巨体のアメリカ人。【皇帝】のアダム・ダッドリー。今度は摩耶と仕合をした闘技者である。

【体外解脱】(肉体だけを眠らせた状態)でのイメージトレーニング。生前、小鳥遊兜馬にこのトレーニング法を教わって以来、悠はこの鍛錬をずっと続けていた。

現実世界と「まったく同じ環境」を設定、闘技者のコピーを生成し、戦闘を行う。睡眠中の反復学習が脳へと与える影響は科学的に証明されている。

8戦。悠が一度の睡眠時に行う仮想戦闘の平均数である。

8×365日で2920、これが2年ならば5840、3年ならば8760…………悍ましいほどの仮想戦闘をこなした脳髄は、「考えるより先に行動する」境地へと達していた。

摩耶をも追い込んだアダム・ダッドリーの苛烈な攻撃が悠を襲った。【不壊】では対処できないと判断した悠は戦法を切り替えた。

【消える腕】からの【小鳥遊流・冬花ノ型:柳】

力の流れを捻じ曲げ体勢を崩す技、常人ならば重力を無視したように投げ倒されているのだが、皇帝は倒れない。技術というよりはもはや能力の域に達している体幹で踏みとどまったのだ。

一瞬だけ停止したアダムはすぐに腕を振り上げてハイスティックショット(死神の一撃)が振り降ろされる。

コイツの体幹…崩し切れねぇ。なら…力を返す!!

悠は落ちてくる拳を撫でるように払い返した。

【小鳥遊流・秋宵月ノ型:力動流し】

全身を崩すことはできなくとも、力のこもった腕一本だけをピンポイントに狙った結果、アダムの腕に力があらぬ方向へと作用し肩や肘がねじれ外れていく。

アダム『FUCK?!』

悠『オッラァぁ!』

悠の右ストレートが顔面を潰す。するとアダムは煙のように消滅した。
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