ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

重心を極限まで下げた仕切りの体勢……。

力士の肉体で最も発達している筋肉はどこか?

答えは……【脚】

観客たちの目から巨体な力士の姿が消えた。

それは余りの速さに、動体視力が追い付かないのだ。

幕内力士の平均体重は150キロ。にもかかわらず、彼らの100m走平均タイムは13秒を切る。超重量の肉体を支えるには、強靭な脚の筋肉が不可欠なのである。

力士の中でもとりわけ強靭な脚腰をもつ鬼王山だからこそできる変形ぶちかまし。スピードは従来の2倍。威力は4倍。

その名を【激旺(げきおう)】

最高スピードを維持できる距離も倍増。その射程距離は、土俵と同じ直径4.55m。

移動方向は、前方へ限定されるものの……この距離内での鬼王山の速度は、あの室淵剛三をも凌駕していた。

関林「上等だ!!」

重心を低く構え、大きく息を吐く。全身の筋肉が収縮し、「衝撃」に備える。

【最強の矛】VS【最強の盾】

生き残るのは、ただ一人!!

一瞬の無音。

次の瞬間、両雄がぶつかると闘技場全域を揺るがさんばかりの激突音が響いた。

かつて関林が受けた、いかなる衝撃より強大。仁王立っていた場所からはるか後方に吹き飛ばされてしまう。

打ち勝ったのは……相撲!!

ぶつかっていった側の鬼王山は額から出血するものの笑みが浮かんだ。

だが…………勝利の代償は、あまりにも大きく……膝をついた。なぜか立ちあがれない。

しかして、プロレスラーは何度でも立ちあがる。

関林「ふうーーーーッ…どうだ小僧?プロレスの受けはスゲェだろ?」

殴られ、蹴られ、頭突から、ぶちかまされ、全身が血に染まったプロレスラーは立ち上がり、相撲取りはそれを見上げている。

鬼王山「ッッッ!!」

な……何故、立てる!!?何故、俺が倒れている!!?

小鳥遊製薬代表闘技者、金剛は大きく感嘆の息を吐いた。

金剛「関の奴、受け返しやがった!激突の瞬間、関は鬼王山の頭を胸で圧し下げ、その衝撃を、鬼王山の頭部へ伝導させた。その結果、鬼王山は脳へ深刻なダメージを負ったんだ。」

通常の受けは、自分へのダメージを逃すことだが……関の受けはまったくの逆。相手のフォームを崩して受け、破壊する……相手の攻撃力が高いほど、その威力は増していく。

鬼王山は自身の攻撃によって、徐々にダメージを蓄積させられていたんだ。

金剛の肩に乗っている摩耶が言う。

摩耶「金剛君の【筋肉反射(マッスルカウンター)】と似てるね。けど、あの技は「受けのスペシャリスト」の関林さんにしかできない。関林さんは、【受けながら壊す(プロレスの超実戦型)】技術を完成させたんだね。」

優秀な闘技者は多い。だが、優秀なだけでは勝ち残れない。必要なのは「信念」。「信念」とは「執念」。

信念のある男は……強い!!

蹲る鬼王山を関林はホールドし、一気に吊り上げた。そして全体重を乗せて地面へと叩き落した。

約300㎏。二人分の体重の乗った。後頭部直撃の【パワーボム】=脳震盪不可避。たとえ、力士であっても。

意識が途切れる寸前、ぼやける視界の中に自分を見下ろすプロレスラーが映った。

気にいらねぇ……俺が……こんな野郎に負けるなん………て……………。

関林「……お前、良いエンターテイナーだったよ。お陰で、ど派手に決められたぜ!」

レフリー田城「勝負あり!!」

勝利前言を受け歓声に包まれる中、関林は退場していく。
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