ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】
ー東京:男気キックボクシングジムー
某月某日、深夜に差し掛かろうとする時間帯、普段なら人の気配も消えているはずのキックボクシングジムで……。
「うう…痛え…」
顔面を抑えて床にうずくまる男にそれを見降ろす巨漢の男。そして、その二人を睨んでいるのが剛-1グランプリ15代ヘヴィー級王者の羽賀晴樹は巨漢の男に敵意を向けていった。
羽賀「貴様…俺の留守中に好き飼ってやってくれたな。」
蹲って悲痛の声をあげているものはまだいいい、ジム中に意識を失って倒れている男だらけなのだ。
巨漢の男「おいおい。襲ってきたのはコイツらだぜ?俺は「出稽古に来た」だけなのによォ。ようやく目当てに会えた。キックボクシングつてのを教えてくれよ、チャンプ。」
背中に角のある骸骨が笑っている着物の上を肌蹴させながらノシノシと歩いてきたのは禍谷園の鬼王山尊だ。
羽賀「お前、横綱の弟だな。喧嘩沙汰ばかり起こす出来損ないって聞いてるぜ。」
鬼王山「…違うな。出来損ないは兄貴たち…今の相撲の方だ。俺は、相撲をん変える。」
足を開いて腰を落とし、ズンッと拳を地面に落とす。ぶちかましの体勢。
羽賀「「変える」?そういう台詞はテッペンを獲ってから言えや。」十両風情が吼えるんじゃねえ。」
立ちあい返し直後、羽賀は鬼王山から十分に距離を取った。臆したからではない。勝利への確信からである。
クラウンチスタートにも似た力士のぶちかまし。その速度は、2メートルまでなら本職のスプリンターをも上回る。
だが、裏を返せば「速度を保てるのは2メートルが限界」ということ。瞬発力に特化した相撲という競技の弊害だ。2メートルを越えた時点で、その速度は急速に失われる。
『人を殴って金をもらえる。』
羽賀がプロを志した理由である。数瞬後に訪れる愉悦を想像し、口元が歪んだ。
距離さえ間違えなければ力士など恐れるに足りん。とはいえ、突きを使うのは効率的ではない。奴の僧帽筋、もはや首と同化している。脳を揺らすのは難しいだろう。
使うのは、脚だ!
速度が落ちたところを膝で迎撃してやるか。
のらりくらりとかわして、じわじわと破壊してやるか。
羽賀の構えは、蹴り技を繰り出しやすいアップライト。羽賀理論において、力士と相対するのに最も有効な構えだった。
さぁ、かかってこい!!と覚悟した瞬間、羽賀は飛んだ。飛び跳ねた、ではない吹き飛ばされたのだ。避ける暇も受ける暇もなく車と正面衝突でもしたように吹き飛んで背後の壁に激突した。
鬼王山「阿呆。雑魚の考えそうなコスい手だぜ。生憎だったな。「古い相撲」はもう捨てた。俺は「原初」を完成させたんだ。「最古」にして「最新」すなわち、最強。誰も俺には敵わねぇよ。」
そして、時は数カ月進み現在……。
片原滅堂の娘、片原鞘香がマイクに向かって叫ぶ。
鞘香「第八仕合!選手入場ッッ!!まず入場するのは、この男!!各界のケンカ番長の登場だアアアッ!!二大横綱の兄を持つ各界一の暴れん坊!!土俵だけでは飽き足らず、暴行恐喝、何でも来い!素行の悪さは横綱級!その実力は、横綱も超える!?超問題児が角界の名誉を背負って出陣!!不遜の極み!綱締めをしての入場だアアッ!!身長194センチ!体重159キロ!闘技仕合戦績7勝敗!!企業獲得資金、221億1610万円!!禍谷園!!鬼王山尊ウウウウウッッッ!!」
鬼王山「フウウウウッッ!!」
【土俵の喧嘩屋】鬼王山尊
鞘香「えー、なお本仕合では対戦相手の関林ジュン選手たっての希望で、入場順を逆転しております。関林選手入場まで今しばらくお待ちください!」
選手登場廊下から鬼王山を見て腕を組んでふんっと息を吐く城蘭は自信満々に言う。
蘭「やっぱり化粧まわしを新調してよかったわね♪ちなみにデザインは私。」
その背後で禍谷園社長の禍谷重蔵はなぜドヤ顔をする、と思いつつあることを聞いた。
重蔵「そういえば城、お前まだ従妹さんにあっとらんそうじゃのう。仕合が終わったら挨拶ぐらいしてくるんじゃぞ。」
従妹とは城凛のことであった。しかし、蘭はプクッと頬を膨らませて首を振った。
蘭「……イヤです。また迷子になって馬鹿にされるもん…社長も尊君もイジワルだもん。」
重蔵「……(コイツの方向音痴は芸術的じゃからの。)」
某月某日、深夜に差し掛かろうとする時間帯、普段なら人の気配も消えているはずのキックボクシングジムで……。
「うう…痛え…」
顔面を抑えて床にうずくまる男にそれを見降ろす巨漢の男。そして、その二人を睨んでいるのが剛-1グランプリ15代ヘヴィー級王者の羽賀晴樹は巨漢の男に敵意を向けていった。
羽賀「貴様…俺の留守中に好き飼ってやってくれたな。」
蹲って悲痛の声をあげているものはまだいいい、ジム中に意識を失って倒れている男だらけなのだ。
巨漢の男「おいおい。襲ってきたのはコイツらだぜ?俺は「出稽古に来た」だけなのによォ。ようやく目当てに会えた。キックボクシングつてのを教えてくれよ、チャンプ。」
背中に角のある骸骨が笑っている着物の上を肌蹴させながらノシノシと歩いてきたのは禍谷園の鬼王山尊だ。
羽賀「お前、横綱の弟だな。喧嘩沙汰ばかり起こす出来損ないって聞いてるぜ。」
鬼王山「…違うな。出来損ないは兄貴たち…今の相撲の方だ。俺は、相撲をん変える。」
足を開いて腰を落とし、ズンッと拳を地面に落とす。ぶちかましの体勢。
羽賀「「変える」?そういう台詞はテッペンを獲ってから言えや。」十両風情が吼えるんじゃねえ。」
立ちあい返し直後、羽賀は鬼王山から十分に距離を取った。臆したからではない。勝利への確信からである。
クラウンチスタートにも似た力士のぶちかまし。その速度は、2メートルまでなら本職のスプリンターをも上回る。
だが、裏を返せば「速度を保てるのは2メートルが限界」ということ。瞬発力に特化した相撲という競技の弊害だ。2メートルを越えた時点で、その速度は急速に失われる。
『人を殴って金をもらえる。』
羽賀がプロを志した理由である。数瞬後に訪れる愉悦を想像し、口元が歪んだ。
距離さえ間違えなければ力士など恐れるに足りん。とはいえ、突きを使うのは効率的ではない。奴の僧帽筋、もはや首と同化している。脳を揺らすのは難しいだろう。
使うのは、脚だ!
速度が落ちたところを膝で迎撃してやるか。
のらりくらりとかわして、じわじわと破壊してやるか。
羽賀の構えは、蹴り技を繰り出しやすいアップライト。羽賀理論において、力士と相対するのに最も有効な構えだった。
さぁ、かかってこい!!と覚悟した瞬間、羽賀は飛んだ。飛び跳ねた、ではない吹き飛ばされたのだ。避ける暇も受ける暇もなく車と正面衝突でもしたように吹き飛んで背後の壁に激突した。
鬼王山「阿呆。雑魚の考えそうなコスい手だぜ。生憎だったな。「古い相撲」はもう捨てた。俺は「原初」を完成させたんだ。「最古」にして「最新」すなわち、最強。誰も俺には敵わねぇよ。」
そして、時は数カ月進み現在……。
片原滅堂の娘、片原鞘香がマイクに向かって叫ぶ。
鞘香「第八仕合!選手入場ッッ!!まず入場するのは、この男!!各界のケンカ番長の登場だアアアッ!!二大横綱の兄を持つ各界一の暴れん坊!!土俵だけでは飽き足らず、暴行恐喝、何でも来い!素行の悪さは横綱級!その実力は、横綱も超える!?超問題児が角界の名誉を背負って出陣!!不遜の極み!綱締めをしての入場だアアッ!!身長194センチ!体重159キロ!闘技仕合戦績7勝敗!!企業獲得資金、221億1610万円!!禍谷園!!鬼王山尊ウウウウウッッッ!!」
鬼王山「フウウウウッッ!!」
【土俵の喧嘩屋】鬼王山尊
鞘香「えー、なお本仕合では対戦相手の関林ジュン選手たっての希望で、入場順を逆転しております。関林選手入場まで今しばらくお待ちください!」
選手登場廊下から鬼王山を見て腕を組んでふんっと息を吐く城蘭は自信満々に言う。
蘭「やっぱり化粧まわしを新調してよかったわね♪ちなみにデザインは私。」
その背後で禍谷園社長の禍谷重蔵はなぜドヤ顔をする、と思いつつあることを聞いた。
重蔵「そういえば城、お前まだ従妹さんにあっとらんそうじゃのう。仕合が終わったら挨拶ぐらいしてくるんじゃぞ。」
従妹とは城凛のことであった。しかし、蘭はプクッと頬を膨らませて首を振った。
蘭「……イヤです。また迷子になって馬鹿にされるもん…社長も尊君もイジワルだもん。」
重蔵「……(コイツの方向音痴は芸術的じゃからの。)」