ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー東京中目黒:三子山部屋ー

三子山相撲部屋ではざわざわという音が外に漏れるほど記者たちが集まり、超巨体の男二人。【横綱】龍王座山堅(兄)【横綱】虎王山忍(弟)にカメラを向けてシャッターを押し、声をかけていた。

「すみませーん!こっちにも目線お願いしまーす!」

「虎王山関!二場所ぶりの優勝おめでとうございます!」

「これで通算29度目の優勝です!」

「幕内最多優勝記録更新まであと4回です!」

「今のお気持ちを一言!」

虎王山「ガハハハッ!うちの倅も撮ってくれよ!未来の大横綱だかせなっっ!!」

鯛をまるまる一匹片手でつかんで持ち上げて大笑いする忍の隣には女性が赤ん坊を膝にのせている。

「でけー鯛だなぁ…奥さんが小さく見えらあ。」

「でも横綱と比べると、まるでめざしだぜ。」

虎王山「ガハハハッ!!悪いなアニキ!!先に記録を更新させてもらうぜ!!」

顔付の濃い虎王山にニコニコと笑いかける龍王山。

「ひゃー!迫力あるなあ。」

「よく見とけよ新人。大相撲史上初の双子横綱。豪快で男気あふれる弟の虎王山。温和で人徳のある兄、龍王山。もちろん、両者実力もピカイチ。両横綱がいる限り、各界の未来は明るいぜ。うんうん。」

「いやー、それにしても似てない兄弟っスねー。あっ、兄弟といえば……「末弟の鬼王山関」が十両で全勝優勝。来場所の新入幕(幕内に昇進すること)がほぼ確定しましたね。近い将来、史上初の三兄弟横綱誕生!…なーんてこともあるかもしれませんねー。」

「「「……」」」

新人記者のその一言に虎王山は笑いを止め、微笑んでいた龍王山も真顔になり、まわりの記者たちも取材を止めて新人のほうへ視線を向けた。

「えっ……??あれ……!??な、何ですかこれ……??えぇ??」

「ばっ……!!ばっ……!!馬鹿たれがアッ!!なんてこと言いやがる!!(横綱の前ではなぁ、鬼王山の名前は絶対にタブーになってんだよ!!)」

上司の記者がつかみかかって声を潜めて話す。

「まっ…マジっすか!?そ、そんなの知らなかったスよ…」

「テメェ相撲記者だろうがっ!!知らねぇじゃ通らねえんだよ!!すまねえ横綱!!ウチの馬鹿が水差しちまって……」

新人の頭をつかんで二人でペコペコと頭を下げる。

虎王山「おいおい。頭を上げてくれよ日スモさん。新人さんなら仕方ねぇや。」

龍王山「…………ごわしゃん…」

虎王山「兄貴…」

温厚そうな顔つきから一転、眉間に鋭いしわと青筋を浮かべた龍王山が静かに厳かだが怒りのこもった声で言った。

龍王山「末弟(おとうと)は…鬼王山(たける)は力士ではごわしゃん。鬼王山の相撲は…相撲への冒涜でごわす。」
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