ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:観客席ー

タンカーに乗せられて運ばれて行く目黒、その顔には白い布がかけられている。

城「ひぇっ……またひとり死んじゃいましたよ。魏雷庵が見せたなぶり殺しとは異なりますけど……どっちにしろ殺すなんてやりすぎですよ……」

悠「それは違うな。アイツ(目黒)はとっくに死んでたんだろ。」

城「え?!」

悠「人間としては死んで、殺人衝動だけで突き動いてた獣。甘いこと言ってたら……次に殺されてたのはお前だったかもしれないぞ。んー、腹減ったし飯でも食ってくるかな。」

城は複雑な表情を浮かべて悠後を追う城だった。

東洋電力専用のVIPルームではモニターの中で退場していく目黒を一瞥した速水勝正はまだ火をつけたばかりの葉巻を灰皿で潰した。

速水「ふん……所詮は獣…こんなものか。……まあよいわ。まもなく前半戦も終わる。」

うち、二回戦進出が一名……いや、二名は確定済み。うむ、悪くない滑り出しだ。片原滅堂の首を取る日も近い。


そのころ、闘い終えて勝ち生き残った男、凍夜は目を押さえながら廊下を進んでいると声をかけられた。

詠子「社長。」

凍夜「ああ、詠ちゃん。」

目を押さえたまま詠子の方へと振り向いた。

詠子「ああ、本当に視えてるんですね。濡れタオルとアイシングです。東郷社長が治療の準備をしてくれてますので行きましょう。」

右手でタオルを、左手でアイシングを受け取った。タオルで顔を拭くとべっとりと赤いシミが広がり、そのうえからアイシングを当てた。

凍夜「はあぁ……初戦からとんでもないのと当たっちゃったもんだ。」

詠子「本当ですね。見ていて冷や冷やしましたよ。最初は」

凍夜「最初は?」

詠子「最初の投げと目突きはヤバいと思いましたけど……結果を見てみれば圧倒してましたよね。」

凍夜「手加減して制圧できる相手でもなかったからね。最後はあんな結果になったけどね。」

詠子「……なんにしても、お疲れ様でした。」

凍夜「……ありがとう。」

同時刻、禍谷園選手控室からとんでもない衝突音が響いていた。

禍谷園社長、禍谷重蔵が両腕にクッショングローブを着けてしっかりと踏ん張り叫んだ。

重蔵「よし!もう一丁!!」

目の前では禍谷園代表選手、鬼王山尊が腰を落としボコボコと筋肉を膨らます。

鬼王山「へっ!怪我すんじゃねーぞオッサン。」

相撲取りの巨体が猛烈なスタートを決めてぶつかる。クッションで受け止めるも重蔵の身体は後ろに飛ばされて背後の壁にぶつかりようやく停止した。

重蔵「ヌウゥッ!!いい当たりじゃあッ!!ヌハハハッ!どうじゃ見取ったか!?ワシもまだまだ現役でイケるじゃろ!!……って、見てないな貴様!おい!何をボケーッとしとる!?」

同室内にもう一人いた金髪ショート女性はポケーッとした様子で完全によそ見をしていた。

「あら…?バレちゃった?」

重蔵「お前、隠す気なかったじゃろ!?全く……困ったやつじゃ。お前は相変わらず抜けとるのう、城ィ。そんなことじゃ嫁の貰い手が見つからんぞ?」

禍谷園秘書、城蘭(きづきらん)はぷくっと片頬を膨らませていった。

蘭「まあ…ひどいことを。ねえねえ尊君?今の発言はセクハラよね?私、深く傷ついたわ。」

鬼王山「…アンタはホントマイペースだな。調子が狂うぜ。…そんなことより城さんよ。」

蘭「あら?「お姉ちゃん」でいいのよ?」

鬼王山「呼ぶか、阿呆。俺の対戦相手はホントに強ええのかよ?あんな八百長野郎がよ。」

蘭「……ええ。強いわよ。闘技者屈指の怪力と打たれ強さ、そして、圧倒的なテクニック。闘技仕合で57連勝を達成した怪物が弱いはずないでしょう?おそらく、闘技者の中でも五本の指に入る実力者。【獄天使】関林ジュン、紛うことなき強敵よ。」

鬼王山「ふ~ん……強敵か。つまり、倒しがいがあるってことだな。」
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