ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

つま先で何度か地面を打った。自身に伝わる振動、観客たちの声、あちこちに立ちこめる高級コロンの匂い。衣擦れ音、装飾品の音まで……凍夜は感知していく。

凍夜「……うん、十分過ぎるほどに、視える。ん?心拍数が上がっているね。」

血濡れた両眼を閉じたまま目黒の方へと向き直った。

目黒「……」

何で見えるんだ?両目はちゃんと潰したのに……お父さん…………やっぱりアンタ、スゲえよ。

狂人は唐突に笑みを浮かべると左手で外れている右関節を掴んだ。ゴキュッとぐぐもった異音。

凍夜「(今、肘をハメ直した…)」

目黒「ハァアア」

肘関節が戻ると怪物は猛進する。両腕を伸ばして掴み投げようと強襲したが掴まれる寸前、逆に敵の両手の中指と薬指を掴んでへし折った。カウンターでの部位破壊を受けて目黒の足は止まり腕も引っ込めるが頭を掴まれ顔面に膝が突き刺さる。

凍夜「呆けてんじゃねえよ。」

目黒「ッ~~!!」

飛び膝蹴りの直撃にヨロける目黒に凍夜は更に攻撃を畳みかけた。

凍夜「もう茶番はいいよな?さっさと終わらせてもらう!」

顔面への正拳突き、膝を狙ったローキック、体勢が崩れたところにラッシュを浴びせかけた。上半身の弱点を中心とした打撃の雨を受けるも、目黒は突如大きく口を開いて頭を振った。

目黒「ガクァァッ!」

凍夜「ッ!!」

右の二の腕に走る痛み。肉の一部を食いちぎられ血が噴き出す。

目黒「ハッハーッハ、カチカチカチカチッ!」

歯を噛み鳴らして獣のように威嚇する。

凍夜「こいつ……」

本当に人間か?

目黒「あはぁ、血が出ちゃった♪カチカチッカチカチッ!」

凍夜「ここまで傷を負ったのはコートジボワール内戦以来だよ。代償は高くつくぞ。」

目黒「ハァッハァッハァッハァッ!」

大型獣じみた呼吸音の中にゴキッ、ゴキュッと異音が混ざるのを聞いた。今度はへし折った指を無理やりハメ直したのだ。

凍夜「完全に人間をやめてるな……。」

深く息を吸って肺の隅々に酸素を送り、今度は凍夜から前に出た。振り上けだ足が半月を描き目黒の頭を弾く。

目黒「ギッ!!」

横面を完璧に捉えたハイキック……が、目黒は怯むこと無く自分の顔に伸びている足のふくらはぎを掴み、一本背負いを仕掛けた。凍夜の身体が空へと投げ上げられる。

凍夜「シィッ!」

投げ落とされそうになるも、その勢いを利用し掴まれていない右足で目黒の後頭部を踏み落とした。恐らく頸椎に強いストレスを与えた強い一撃に目黒の両手が右足から外れた。

頭を抑える目黒だったが逃がした獲物を捉えんと執念でまた掴まんと腕を伸ばす。しかし、凍夜はそれを上半身を屈めてよけ、突き上げるような手刀を目黒の喉へと突き刺した。

目黒「ゴボォッッ!!??」

凍夜「気管を潰した。」

本来ならばもはや息もできずとっくに終わっている。それでもなお目黒は、狂獣は止まらない。声にならない叫び声をあげて襲いかかってくる。

目黒「~~ッッッ~~ァァ!!!」

破れかぶれに襲い来る化け物に凍夜は徹頭徹尾冷静に対処した。伸びてくる両腕を打ち払い、腰を入れた渾身のハイキックをぶちかました。すでに負担がかかっていた首への一撃を受けて今度こそ骨も限界に達し、歪な方向へと曲がる。

凍夜「…………終わりだよ。」

目黒「……」

首の骨が折れてなお立っている目黒の耳に声が聞こえてきた流

『……樹…』『正樹……』『正樹!』

自身を呼ぶ声。

『逃げるな正樹!もっと腰を使うんだ!』
『俺の得意技の払い腰、練習してみるかい正樹君?』

『正樹…』『正樹…』『正樹…』『正樹…』

自分に語りかけ近づいてくる殺したはずの父や石田、宗光、鈴本、みんなちにまみれていて……じぶんにてをのばしてくる……。

レフリー田城「おい、目黒ッ!」

よたよたと対戦者である凍夜を無視してどこかに歩きだす目黒に向かってレフリーが近づき声をかけた。

目黒「ああ…楽しかった…」

その言葉を最後に目黒は仰向けに倒れた。

レフリー田城「目黒!」

アニマルガール「田城さん!すぐに担架を呼びます!」

レフリー田城「…………いや。もう…急ぐ必要はない…。」

笑顔を浮かべたまま動かなくなった目黒をおいて、レフリーは凍夜の側にいって叫んだ。

レフリー田城「勝負ありっ!勝者!!結城・クリストファー・凍夜!!」

観客たちからの声援がドーム内に響き渡る。

凍夜「……彼の精神はどこに達していたんだろね。」

凍夜はそう呟いて小さく十字を切った。
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