ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

凍夜「うっ……くっ……」

立ちあがった凍夜だが顔を押さえている両手の隙間から鮮血が零れ落ちて震えている。その姿を怪物は残った右目で見つめて呟いた。

目黒「き…き…キレイに潰れたね…………あれ?どうしたのお父さん?目が痛いの?」

凍夜「!!」

近づいていく狂人。

目黒「どうたのねえどうしたのねえどうしたのねえどうしたのねえどこか痛むのどうしたのケガしちゃったの痛いのなにどうしたのなにどうしたのなにどうしたのなにどうしたのどうしたのどうしたのどうしたのどうしたのどうしたのどうしたの」

凍夜「ッ!!」

呪言のように不気味な呟きが繰り返され、ついに目を押さえて動けない凍夜の前で停止した。

目黒「大丈夫?お父さん…」

凍夜「ぐっ……!!」

目黒「………そうか…辛いんだね。じゃあ、殺るね。」

狂人の両腕が伸び凍夜の鎖骨と腕をガッツリと掴んだ。技(殺害)に入る。腰が回ろうとしたその瞬間、内側から外へ抉るような蹴りが目黒の膝裏をぶち抜いた。

突然の衝撃に技に入りかけた姿勢を無理やり崩され、鎖骨を掴んでいた右手の力が緩む。

凍夜「お前は本当に素直だな。」

体勢の崩れた目黒の背後を取るように回りこみながら、凍夜は更に右腕の手首と肘を両側から挟みこんで押し込んだ。ゴキョッと不気味な音が鳴り目黒の右腕がおかしな形にひん曲がった。

鞘香『は、外れた!!目黒選手、右肘を脱臼!!しかし……しかし……』

目黒「ア゛ア゛ア゛ッ!!!」

自由の効く左腕で裏拳を仕掛けたが、凍夜はスウェーで反撃を容易に避けた。

凍夜「スッ……ハァっ!」

大丈夫、問題ない。よく「視えてる」ぜ。お前の動きは手に取るようにな。

一瞬、ほんの一呼吸だけ結城・クリストファー・凍夜の動きが止まった。次の瞬間堰を切ったように肩、胸、鳩尾、太ももに正拳四連突きを目黒に浴びせた。

目黒「ア゛ア゛?ガぁ!??」

全てが直撃し驚き叫びなのか悲痛の呻きなのかわからぬ奇声を上げながら大きく吹き飛ばされる。

鞘香『決まったー!凍夜選手の猛ラッシュ!!し…しかしながら、私にはまるで分りません。光を失ったはずの凍夜選手が何故!?攻撃をかわし、打撃を当てることができるのか!!??』

凍夜「ははっ……光を失った、か。」

両眼から血が流れている凍夜のまぶたが僅かに開く真っ赤に染まっているものの其処には確かに眼球が存在していた。マウントを取られ、首をホールドされた状態で目を突っこまれたが……なぜ?

それは指が迫りくる刹那、自分から突き刺さりに頭を傾けたのだ。目測としていた眼球から着弾地点が僅かにズレ下まぶたを突き破り眼底の中に指が抉りこんだが幸いにも目玉は無事だった……。

これは先に与えた右目と右耳のダメージ目黒の感覚をわずかに狂わせていたことと一瞬で行動に移した凍夜の覚悟による結果!0という絶望から1%の希望を手繰り寄せたのだ!!

だが……そうだとしても、視覚は機能していない。現時点では光を失っているといっても過言ではないのだ。

岩美重工の東郷とまりは自選手登場口廊下から闘いの様子を見ていた。

とまり「チッ」

糞アマにはわからんでも、闘技者連中にはネタが割れちまったな。……まあいい、ネタが割れたところでどうなるもんじゃねぇ。

結城・クリストファー・凍夜は過去に交渉人(ネゴシェーター)として戦場に君臨していた。あらゆる兵器が使用される死の現場の中で凍夜は視力を失いかけたこともあった。

だが、奴は決して諦めなかった。

聴覚。反響による地形探索や、相手の動作音を拾い、攻撃を予測する。

嗅覚。匂いを元に、相手の人数や健康状態、装備などを把握。

そして触覚。聴覚によって得た地形情報の微修正を行う。

奴の言葉を借りるなら、「常人以上に視えている」ってことだそうだ。
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