ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

熱気を増す声援の中【自在遊戯】結城・クリストファー・凍夜と【泣き男】目黒正樹が闘技場の中央に並び立つ。

レフリーが声を張り上げた。

レフリー田城「両者、開始位置についてェッ!!」

凍夜は足のつま先を軽く地面に打ち付けて敵を観察する。両手を縦に構え右足をやや前に突きだして上半身を前傾に置いた姿勢……。

この構え……重心……

凍夜「柔道か。それは悪手ってもんだよ?スポーツマン。」

その時、一匹の小さなハエが飛んだ。不規則な軌道でガン開きしている目黒の眼球に止まった。しかし、微動だにしない、払うこともなければ瞬きひとつせず眼前の敵を注視し続ける。

目黒「……」

早く…ッ!早く……ッッ!!モウ、止マラナイ!!

レフリー田城「構えてェッ!」

「「……」」

レフリー田城「始めェィッ!!」

開始の宣言と同時に凍夜は目黒の右足へローキックを仕掛けた。最短最速かつ正確なローだった……が、自身の身体が止まる。右肩口にかかる圧力、視界が一回転する。

凍夜「何っ……ガッ!!?」

何とか受け身を取った凍夜だったが、衝撃を霧散するには至らず、一瞬動きが止まった。

速水「好機。遊んであげなさい正樹。」

仰向けに倒れた凍夜の上にのしかかった。

鞘香『マッ…マウントォォォ!!』

目黒が掴んだ箇所は、鎖骨と二の腕。柔道のオーソドックスな組み方で掴む位置だ。つまり……ノーギ対策は万全というわけだ。

目黒正樹は……ただの狂人ではない。

凍夜「ゴボッゴホッ!」

血の混じった咳。背部打撲、擦過傷…複数。内臓ダメージ少々。戦闘続行に支障なし。

馬乗りになって両腕を掴んで抑えている目黒が語りかけてきた。

目黒「…………お父さんが言ってたんだ。柔道は、最強の格闘技だって。」

眼からボタボタと滴る血が凍夜の顔を濡らす。この狂人は始めっから殺すつもりで仕掛けてきている。

凍夜「そうかいっ!」

捕まれている腕から手を振りはらい拳を打つ。

鞘香『凍夜選手、懸命にマウントから逃れようと試みる!!しかし、この体勢でのパンチは降下が薄いか!?』

顔面を何度も殴打されるも目黒はびくともせず凍夜の首に手を回した。

目黒「ねぇ…なんで服、着てないの?技がかけられないでしょ。」

鞘香『首を絞めたァーーーーッッッ!!』

柔道のグラウンドでの攻防技術は全格闘技の中で一・二を争う。

凍夜「ゴボッッッ!ガハッ…!」

特筆すべきは、いかなる状況でも崩れない抜群の安定感。歴戦の柔道家とのグラウンドの攻防。それは、海中で鮫に勝負を挑むに等しい。

目黒「……苦しい?……うん。苦しいよね……あっちでお父さんにあったら伝えてよ……柔道を教えてくれてありがとう、って。」

凍夜「ぐっ……あっ……自分で伝えな。」

苦しんで泡を吹いていた凍夜の顔が一瞬で真顔に戻り掌底で目黒の左目を穿った。

目黒「ギッ…ギャアアアアアアアッ!!」

流石の狂人もこれには叫び声をあげる。

鞘香『つッ……潰したアアアアアッ!!』

凍夜「ごほっ……嘘つきには要注意だぜ。」

とまり「木偶の坊がッッ!!凍夜を舐め過ぎなんだよ!!」

奴は数多の戦場を生き抜いてきた軍隊格闘術(サイレントキリング)の達人!!急所攻撃、騙し、化かし……ルール無用の闘いで、右に出る奴はいねぇっ!!

目黒「ギッ!!」

凍夜「!?」

一瞬は確かに仰け反った目黒だったが残った右目で凍夜を睨むと再び両手に力が入る。

目黒「ギィィ!!」

凍夜「ぐぁっ……!!」

コイツ……目を潰されても怯まない……?ならばダメ押しだ!!

開いていた左手の中指を立てた力を一点に集中し、横薙ぎに目黒へとぶつけた。耳の穴へと深々と突き立てたソレは鼓膜を突き破り蝸牛、つまりは三半規管を潰したのだ。

これで我慢大会は終わりだ。
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