ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ーソマリア沖:大型商船ー

SLF「船長!」

双眼鏡で辺りを警戒していたSLF員のひとりが何かを見つけて声を張り上げて船長を呼んだ。

SLF船長「何だァ!?」

SLF「前方に小舟発見!」

数キロ先の波間に手漕きボート(小舟)が漂っている。

SLF船長「小舟だあ!?んなもんさっさと沈めちまえ!!」

SLF「あれ?あの船…誰も乗っていない?」

SLF船長「ああん?港から流されてきたか?」

突然、高い波しぶきが上がり同時に何かが甲板へと落ちてきた。

「ひい、ふう、みい……7人か。思ったより少ないな。」

人質も海賊も甲板に現れたソレに目を向ける。金髪で後ろ髪を一束に結っていて、びっしょびに濡れた黒いズボンに白のワイシャツに上着の男。

「「「!!?」」」

突如現れた男は濡れて駄目になっている上着を脱ぎ棄てると海賊たちに目を向けた。

「どうだろう、ここは幕引きにしてもらえないかな?」

「「「で…!で……!!で…………ッ!!で、出たアアアアアアッッ!!クリストファーーーーーっっっ!!」」」

凍夜「海賊さんたち。ネゴシェート(交渉)しに来ましたよ。」

海賊の頭は愕然とする。

さ……最悪だ。

半年前、シエラレオネで起こった反乱軍のクーデター。事態鎮圧のために、シエラレオネ政府が雇い入れた男。結城・クリストファー・凍夜。

奴は、完全武装した反乱軍を相手に、単身・素手で挑み……一発の銃弾を浴びること無く、反乱軍を再起不能にした。

銃を構えて震える船長に視線を向ける。

凍夜「ああ……ちょっと怯えないでくださいよ。俺は話し合いに来たんですよ。どうかそんな物(武器)を降ろして……。」

SLF船長「くっ……糞ったれエエエエエ!!」

にこやかに話しかけるものの聞く耳を持たず、凍夜に向けて海賊たちはあらゆる銃器を構えて一斉に発砲した。船上で響く爆音に発砲音と叫び声……。

少しして、静まり返る船にひとりの女が降り立った。長い黒髪に鮫のように鋭いギザ歯をむき出しにして笑う、岩美重工社長の東郷とまりである。

甲硝煙が舞い血だまりで汚れた甲板の中央で雑に山積みにされたSLFの海賊たちの上に腰かけた凍夜を見て笑う。

とまり「……いいねえ!武装した海賊を2分経たずで皆殺しかよ。」

凍夜「いやいや、誰一人殺してませんよ。そもそも俺は話し合いに来たはずなんですけどね……。」

とまり「「金糸の死神」「伝説の殺戮傭兵」…噂はフカしじゃなかったようだな。」

凍夜「どっちのフカしですよ。何度も言いますけど「傭兵」じゃなく「交渉人(ネゴシェーター)」。殺戮もしたことありませんし、傭兵なんて名乗ったこともないんですかね。ああ、そうだ、乗組員の方、残念ながら1名は殺されていましたよ。」

とまり「構やしねぇよ!コイツらも武器商人の端くれだある程度のリスクは承知の上だろうぜ。」

凍夜「…怖い人だ。「結果的に」殺した人数なら、断然東郷さんの方が殺戮者なんじゃないですか?アンタ、良心は痛まないのかい?」

とまり「ハッ!良心だァ!?どの口が抜かしてんだテメェ!コイツらはこの辺りの海賊の中でもド低辺!殺して奪うことしかできねぇドサンピン共だ!命の価値は不平等なんだ!金もねぇ、額もねぇ、テメーが言うところの良心の呵責もねぇ!挙句、私の商品に手を出そうなんてボケを生かしとく理由なんざありゃしねぇよ!!」

気絶して転がっている海賊の頭を蹴り飛ばして東郷は叫んだ。

凍夜「怖い怖い……アンタ、怖い女(ひと)だねぇ。確かに金も力もない人間は分をわきまえて生きなきゃいけないかもしれない。……だけど、俺は金のない人間でもやり直せるチャンスはあっていいと思うよ……。東郷さん、ひとつお願いがあるんですが。」

とまり「あ?報酬を上乗せしろってか?」

凍夜「いえ……。東郷さんは日本に帰るんでしょう?俺も乗せていってください。」

ともき「あぁん?構わねぇが、なんかあるのか?」

凍夜「いえ、まとまった資金もできたんでね。交渉人(ネゴシェーター)も上手くいかないし、廃業して日本で仕事を探そうと思いましてね…。硝煙と血なまぐさい環境から離れようと思いますよ。」

その後、結城・クリストファー・凍夜は戦場から姿を消した。死んだという噂もあり、存在が忘れかけられ始めたころ、再び武器商人の女によって引っ張りだされた。

鞘香「闘技者入場!「暗黒大陸の殺人マシーン」「非情の拝金戦士」「池袋の駆け込み寺」この男の異名の数、イコール伝説の数!死んだと噂されていた伝説の傭兵が今、闘技仕合というう戦場に立つ!身長186センチ!体重76キロ!!闘技仕合初参戦!!岩美重工、結城クリストファー凍夜!!」

鞘香の紹介と共に登場した上半身は裸で黒い下衣で腰元を帯で締めた格好だ。

凍夜「傭兵でも戦士でもないんだけどねぇ……。」

【自在遊戯】結城・クリストファー・凍夜
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