ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

開幕、顔面への超絶な一撃を受けて室淵は頭から後ろへと弾け飛ぶ。常人ならば、この一撃で終わった……はずだった。

顔の下半分が血染めになり前の上下の歯が何本か砕けているが下がった頭が持ち上がった。

この時を待っていた……金剛の右腕を掴んで110キロの超人が繰り出したのは【腕挫十字固】!

筋肉の鎧に覆われた金剛の肉体であっても関節部分までは鍛えられない。巨腕に絡みついた超人がさらに力を込めると腕の関節がギチギチィィと悲鳴を上げる。

だが……金剛もまた超人!

技を極められている右腕に今一度力を込めるとそ、絡みついている男ごと巨腕を持ち上げていったのだ。

無理やり胸ぐらを掴んで振り上げたような体勢まで持っていくと金剛は地面目掛けて振り降ろした。

ダアァァンッと重機が鉄の塊でも落としたような爆音を響かせる一撃。しかし、地面に突き刺さっているのは金剛の巨拳だけだった。

舞う砂煙の中から影が動く、間一髪で脱出を果たした室淵が隙だらけの金剛の上半身を中心を狙った拳のラッシュを浴びせかける。

手ごたえ、有り!

砂煙が晴れる中、見えた金剛は両腕を縦に構えている姿勢で立っていた。つまりは……無傷!!

チィッと舌打ちを一つこぼして室淵はさらに前へと出る。それを迎え撃たんと金剛も右拳を振り上げた。

先に動きだした室淵は速度が乗った状態から足を振り上げ【鳩尾への前蹴り】を金剛に炸裂させる……だが、止まらない!

鳩尾という弱点を蹴られた上で金剛が拳を振りぬくと室淵は大きく後ろに吹き飛ばされた。二度バウンドして立ち止まるが、ギリギリで右拳(ストレート)の着弾をガードした腕が毒々しい紫に腫れあがっている。

圧倒的な破壊力、圧倒的な防御力、圧倒的な存在……そんな敵を前に室淵が取った行動は、30年もの間繰り返してきた、クラウンチスタートの構え。

室淵剛三、最大の武器である両足の太ももが膨らんでいく。そして、一拍置いて弾丸のように発射された。

世界最速の男が放つ……世界最速の【飛び膝蹴り】!!

恐ろしいほどの速度、恐ろしいほどの勢い、恐ろしいほどの跳躍で金剛の下顎に膝がぶち当たった。この一撃にさすがの超人も後ろに崩れ落ちる。

室淵は着地するとトドメを刺そうと倒れ行く金剛に詰め寄ろうとした……。

しかし、その眼には想定外、否、ありえない結果が映る。

倒れて……いない。正確には身体は大きく後ろに傾いていのだが足が、腕が、身体を支える筋肉がボゴォッと膨らんで倒れることを拒んでいた。地面が砕けるほどの踏み耐えている。

金剛の頭が持ち上がってくる。闘士の炎を爆発させたような二つの目が室淵を捉えると全身を奮い起こして右拳を敵へと叩きこんだ。

直撃を喰らった室淵は身体の中心から骨が砕け内臓潰れる音を聞いた、それとともに血反吐を吐きながら空を舞う。自分が走った距離を超え、足が地面を掠り跳ねるも止まらず壁にぶつかりようやく停止した。

…ご…う………ごう…君…………金…剛……君……次こそは……必ず……

壁に半分埋まり腹部は捻じれたように陥没し、口や鼻から血を流しながら動かなくなった超人、しかし、その顔は笑っていた……。

レフリー田城が慌てて近づいて叫んだ。

レフリー田城「勝負ありッ!!勝者!!金剛ッッ!!」

金剛「……」

歓声に包まれる金剛は力を抜くと鼻と口から流れだしたひとすじの血を拭うと右腕を突き上げて選手登場口から退場する。
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