ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

意思を持つが如く伸びかかる髪。悠は構えていた両腕を高く上げ、勢いよく振り下ろした。

悠「見えないのを見せてやる。」

触手のように絡みつこうとする髪束が触れる寸前、何かに弾かれたように分散した。

「「「!?」」」

因幡「!?」

鞘香『な、なにが起こったぁ!?悠選手の前で髪の毛が散り散りになっています!!』

因幡は頭を振って散らされた髪を引いた。何が起こったのか、よく見てみると消えている。悠の両腕が肩のあたりから消えているのだ。

正確に言えば完全に消失しているわけではない、わずかに手や腕の一部分が現れたり消えたりしている。

城「夜見さんの消える手……すごい、ここまで物にできてたなんて。」

因幡「……」

髪の攻撃がもう通じないと理解した因幡は地面についている手と足の先にここ一番力を込めた。その姿は四速獣が猛り襲い掛かる寸前。

それを見て悠は笑みを強めた。

二人の最後の闘いを予見し観客たちは盛大にヒートアップし叫び声が広がる。

悠「……」
因幡「……」

しかし、対して二人の耳にはどんどん音がなくなっていく。視界も白くなっていく観客もレフリーも消え互いの敵しか見えなくなっていく。

時間にすればほんの一瞬であるが闘技者の二人にとっては長い時間……。

その均衡は不意に崩れた。どちらが先という事ではない。ほぼ同時に二人は前進した。間合いが詰まると二人は同タイミングで攻撃を仕掛けあった。

下段から刃のように鋭い突きが放たれた。突如、消えていた悠の手が現れ因幡の手を叩き弾いた。腕全体がビリビリと痺れるような衝撃と、指の先の爪が砕け剥がれる痛みに亡霊の動きが停止する。

瞬間、因幡は自分の顔の横にこぶしが迫っていることに気が付いた。もちろん、すでにガードも避けることもできず殴り飛ばされた。ほぼ骨が砕ける音が体内に聞こえた。吹き飛ばされているさなかも敵からは視線を外さなかったはずの因幡だが悠の姿が消えた。

またも次の瞬間、悠の姿が現れ拳を叩き込んでくる。そのラッシュは並みの打撃ではない。一発一発の衝撃が桁違いの威力で眉間、鳩尾、人中、肝臓、心臓、膵臓……人体の弱点である部位を正確に打ち抜いてくる。

狙われる部位は、わかっている。だが、防げない。

自分に当たる直前まで悠の腕は消えている。そして気が付くと横っ面を殴られ、顎を打ち上げられていた。意識が飛びかけたその時、ガッと頭に圧がかかり引っ張り込まれた。目の前に迫ってくるのは膝。鬼のような膝蹴りがさく裂しここ一番大きく小さな因幡の身体が吹き飛ばされる。

もはや二人は、違う速度を生きていた。

度重なる弱点部位と顔面へ打撃を受け勝負はついたと思った。だが、因幡は両手で地面を打った。その反動を利用して回転しながら踵を振り下ろした。

【因幡流・巻き打ち】

悠にとって予想外だった因幡の余力。完全に虚を突かれた形となった。

しかし、先に仕掛けた踵落としよりも悠の平手が因幡の顎を打ち返した。

この日、因幡の最大の不運は…小鳥遊悠を「本気にさせてしまった」こと。朦朧とする意識の中、因幡は奇妙な感情を抱く、敵であるこの男に、抱いた感情…暗殺をこなす時の鉄の如き感情とは対極にあるもの。

返されただけでは終わらない。頭をつかまれ今度は腹部に膝蹴りがぶつけられた。

打つたび、打たれるたびに込み上げる、焔の如き感情。

血のにじむような鍛錬をこなしてきた。いくつもの修羅場を超えてきた。人生をかけて培ってきた「力」が、まるで通用しない。

…やっべえなコイツ……これほどの「力」を得るまで、いったいどれほどの鍛錬をしてきたんだ…………チックショウ……

因幡良が最後に見たて感じたもの。小鳥遊悠の全身が一瞬完全に霧散し、自分の身体が焔にでも巻き込まれたような無重の感覚だった。そして気が付くと頭から地面へと叩き落されていた。

【小鳥遊流・夏冬ノ型:不知火】

「「「……」」」

瓜田「い……因幡くん………」

…………ああ……何だ……これ……?全然届かなかったけど……意外と……と……悪く……な…………い…………

悠「……楽しかったか?因幡良。闘りたくなったらいつでも来な。」

殴られ蹴られぼろぼろに晴れ上がった因幡の顔は笑って意識を失っている。それを見届けて悠は背を向けた。

レフリー山本「勝負ありッ!」

小鳥遊悠二回戦進出!
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