ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

頬を切り裂くほどの鋭い突きだが致命的な当たりではない。伸びきった腕を掴もうとしたが亡霊は即座に腕を引き後ろに跳ね飛んで距離をあける。

悠「チッ」

鞘香『おっと因幡選手!戦法変更が功を奏したか!?ヒット&アウェイで着実にダメージ蓄積を狙っていく!!一方の悠選手、攻撃が当たらないストレスか?苛立ちを隠しきれません。』

「悠ーー!」
「しっかり決めろー!」

悠「チッ、チッ」

舌打ちを続ける悠の様子にペナソニックの社長、瓜田数寄造は口元を緩めた。

瓜田「よし……それでいい。」

馬鹿正直に撃ち合う必要などないさ。ゆっくり、確実に絡め取っていくんだ……因幡君。

因幡は距離を置きつつ、例のヌルッとした歩法で動き始める。その様子をモニター越しに見ていた西品治明がつぶやいた。

西品治「あれは因幡流独特の歩法「躙(にじ)り」」

摩耶に誘われて一緒に試合を観戦中のアダム・ダッドリーが聞いた。

アダム「知ってるのかい旦那?」

西品治「ああ。摺り足に似ているが、足の指の力みのみを使い移動する特殊な代物だ。」

そんな風に話している間に悠の周りを回るながら間合いを詰めていた。

悠「チッ……チッ……」

構えもせずに舌打ちを続ける悠に城が叫んだ。

城「悠さん!焦らないで!冷静にいきましょう!」

瓜田「焦るなよ因幡君。じわじわと確実に余力を削いでいくんだ。」

因幡「……」

右の五指に力を込め襲いかかろうとした瞬間、横っ面に拳が叩きこまれた。

瓜田「!!」
城「??」

鞘香『ああーーっ!!?当たったァーー!!!』

因幡「!?!?!?」

殴り飛ばさた亡霊も予想外だったのか頬を押さえて動きが止まる。

それを見た皇桜学園代表闘技者の桐生刹那がニッコリと口元に笑みを浮かべた。

あの奇怪な歩法…おそらく歩幅と速度をばらけさせて動きを読みにくくする代物。……ああ、なるほど舌打ちでタイミングを計っていたんだね。

刹那「相手が悪かったね因幡流。彼に、その技は通用しないよ。」

動きの止まった亡霊に対して今度は阿修羅が動きだした。

悠「面白い技だな。だけど次の手に切り替えた方がいいぞ。もう通じないから。」

左右に揺れるように、だが倒れることは無く靄のごとく揺らめき、敵を幻惑する歩法術。

【小鳥遊流:夏喜の型・陽炎(かげろう)】

刹那「ッッ~~///!!」

あのキレ…!やっぱり思った通りだ!

因幡流とはまた違った揺らめく歩法で今度は悠が因幡を中心に円を描きながら間合いを潰していく。そして、ヒット&アウェイどころではない、縦横無尽、陽炎の中から拳や蹴りが襲いかかっていく。

因幡「ッッ!!」

今までのように跳ねたりしゃがんだりでは躱せないほどのラッシュに因幡はガードを固めて打撃の嵐を受けつづける。

しかし、体格差がありパワーも上の相手に立ち止まるのは悪手であった。ガードが崩れた瞬間、強烈になアッパーが亡霊のボディに着弾する。

鞘香『ボディブロー炸裂ウウウウウッッッ!!因幡選手万事休すかーー!!』

血を吐いて因幡の身体が浮いた。しかし、闘技者として並ではない。自分から後ろに飛んで距離をあけようとする。だが、悠は逃がさなかった。拳の届く位置キープしラッシュの手を止めない。

城「やった!やりましたよ!悠さんが流れを引き戻しました!」

凛「社長!このまま悠さんが勝てば一気に億万長者(ピリオネア)ッスよ!」

久秀「……」

紅「なんだ、松永の嬢ちゃん渋い顔して」

久秀「……追い詰められてる側の人間がまだ笑みを浮かべているのが気にいらないのよ。」

「「え?」」

久秀の視線は闘技者たちではなく観客席に居る瓜田数寄造を見つめていた。その顔は確かに笑っている。
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