ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー大江戸城麓・大広場ー

悠「うーわぁー……」

胸毛…もとい、銀次に先導され、混乱した人の波を抜けるとそこはもう演壇の脇だった。演壇のまえからはすでに一般生徒は待避しており、天狗党と火盗・南北奉行所の合戦場と化していた。

銀次「こいつは勝負がついたな」

薔薇もじゃ…もとい、銀次のいうとおり、三方から同時に攻撃されていることで天狗党の陣はすでに綻びが見えだしている。また落ち着いてじっくり見ていると個人の技量にもかなりの差があるのがわかる。
これは訓練を重ねた正規軍と浪人の寄せ集めの差であるように見えた。

おれの素人目からも勝敗はすでに決しているように思えた。あとは殲滅戦か…

「あーあー。テス、テス」

スピーカーから声が響いた。しかもこの状況にはそぐわないのんきなマイクテストの声。

悠「あー?この声は…」

聞き覚えのある声だった。

新「あ、ミッキーとゆかりんだ!」

悠「あ?どこに?」

新「ほら、そこのステージの上にだよ。ミッキー、来たよ~!」

悠「あ…」

新が手を振っている方を見ると、そこには確かに光姫さんの姿があった。天狗党が飛び出してくるまで校長が退屈な訓示をしていたスピーチブースには由佳里ちゃんの姿もある。

光姫さんはこちらに気づくと軽く会釈した。

悠「ミッキー…もとい、光姫さんはなんであんなとこに?」

新「んとね、ミッキーはね…」

光姫「お前たち、そろそろ出番じゃ」

新の声を留めるように光姫さんはいつも持っている杖をくるりと回すと、コーンとステージを叩いた。
すると周囲にきらきらとした粒子が集まりだし、見る間に大きな二つの塊となっていく。

『グォウ!』
『グウウゥウ…』

悠「あれは…狛犬?」

新「あれはミッキーの剣魂、スケとカクだよ」

光姫「そろそろいいじゃろう。スケ、カク、落ち着かせよ」

スケ『グォウ…』
カク『グウウゥウ…』

光姫さんが何やら声をかけると、スケとカクと呼ばれる二体の剣魂は低くうなり声をたて始める。

悠「ん?なんだか急に…身体が……?」

新「あ、いけない!悠、気をつけて。ビリビリドシンって来るよ!」

悠「ビリビリドシン?」

新「ゆ、悠。早く耳をふさいで!」

悠「あー?耳?」

よく分からないがいわれるままに両手で耳を塞いだ。その瞬間だった。

カク『グウォォォォーーン!!』

悠「うわっ!」

剣魂の一体が咆哮した。広場の空気がビリビリと震える。ステージ前の激しい合戦もこの咆哮の前に動きを止めてしまう。

悠「新、これが…ビリビリ…なのか?」

たずねたが無駄だった。新も耳を塞いでるし、そもそもカクの咆哮の余波にかき消される。

スケ『ヴォォウ……』

もう一頭の剣魂がうなりだす。ひょっとしてこいつもまたあんな大声で吠えるのか?

由佳里「…………」

こちらに気づいたらしい由佳里ちゃんもなにかいっている。が、やはり聞こえない。声が通じないとわかったのか、何だか手をばたばたさせだした。

しゃがめ……って伝えてるのか?

スケ『ヴォォーーーン』

悠「なんだ、こっちの奴はたいしたことないっ…なぁっ!?」

ズシーーン!!
直下型の地震でも起きたような衝撃が落ちてきた。

銀次「スケの……パワーは…重力だぜ」

悠「こ、これは……神姫の龍剄ばりに…やばい…」

銀次「立ってらんなきゃ……俺に……抱きついてたっていいんだぜ?」

悠「こ……と……わ……る……」
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