ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

瓜田社長とのやり取りの後、串田凛が青い顔をして久秀に話しかけた。

凛「しゃ、社長……何てことを……」

城「え?串田さん、大げさじゃないですか?テレビ10台分の現金なんて、松永さんにしたらたかが知れてるでしょう?」

久秀「はぁ……あのね、業界用語って知ってる?」

城「え、あー、知ってますよ。部外者にわからない隠語の事ですよね。業界によって色々ありますよね。」

カラス=学生、マカロン=同人誌、兄貴=古い食材、Qランク=旧型、赤信号=交通取り締まりetc.

久秀「闘技会にも共通の隠語があるのよ」

城「へぇ…それは初耳ですね。…………ん?あ、あの……もしかしてさっきの賭けって?」

久秀「「我が社の○○(商品名)」というのは、「自社株」を指す隠語よ」

城「株!?」

久秀「そして「個数」はパーセンテージの隠語。つまり、さっきの賭けは「ペナソニック社の株」の「10%」相当を賭けた大勝負ということよ。」

城「え……え……?」

あのペナソニックの株を10%!?日本一の電機メーカーの10%!?金額なんて見当もつかない!

凛「えー、ちなみにですね、ペナソニックの時価総額と現在の株価から概算しますと……社長が負けた場合、支払う金額はおよそ2800億円です。」

城「にせっ!??」

久秀「そのぐらいになるでしょうね。」

城「どどどどどうするんですか!?」

久秀「なんでアンタが動揺してるのよ。」

城「「キャッシュで支払う」と約束してしまいましたし、闘技会の賭け事は絶対っスよ?」

城「支払えるんですか!?」

久秀「無理ね。2800億円なんて小鳥遊グループでも即キャッシュでは用意できる額じゃないわよ。」

城「じゃ、じゃあどうして?」

久秀「ハッタリよ。向こうが久秀に揺さぶりをかけてるみたいだったから応戦したまでよ。」

凛「ええ……マジっスか……。」

城「応戦したって……負けたら……。」

久秀「負け負けうっさいのよ!悠が勝てば何の問題もないでしょうが!それに例え負けたとしても……」

「「負けたとしても?」」

久秀「うちは松永工業と小鳥遊堂の共同で出場しているのよ?負けた罰として悠が全部背負えばいいだけのことでしょ。」

「「……」」

悪びれた様子もなく美しい笑顔で答える久秀に城と凛は背筋に冷たい物が走った。命を賭けて戦う小鳥遊悠のに敗北と同時に莫大な借金を背負うことになっているのだ……。

瓜田数寄造は歩きながら苦々しい顔をしていた。

揺さぶりをかけるだけのつもりだったが……まさかこんな大勝負に発展するとは……あの女の口ぶりからして、我が社の株を以前から狙っていたのか……油断ならない女だ……。今のうちに確実に潰しておこう……。


鞘香『続きまして、ペナソニック闘技者入場!!驚異の暗殺怪人、満を持しての参戦!!徒手格闘もお手のもの!狙うは優勝のみ!今大会最小・最軽量!身長155センチ体重62キロ!闘技仕合初参戦!!ペナソニック因幡良ゥゥウウウゥッ!』

登場の口上を叫ぶが闘技者が現れない。

悠「……」

鞘香『…………あれ?どうしたんでしょう?因幡選手姿を現しません。』

悠「便所じゃねぇの?」

鞘香『あ~……悠選手、も少しお待ちくださいね。』

悠「別にいいぞ。」

腕を曲げたり足を伸ばしたりと屈伸をしながら待つ。

鞘香『え、え~……会場の皆さまももうしばしお待ちください。』

「因幡早くしろ!」
「サヤカー」
「ペナソニック遅刻だぞ!」

鞘香『(もー……困るなぁ。遅れるんなら事前に連絡してくれないと……)』

そう思いながら視線を選手登場口へと向けると自身の背後に黒い塊が居た。

悠「!」

鞘香『!?キッ…キャアアアアぁァッ!?』

「で、出たぞ、因幡だ!」

いつから居ただろうか……全面を観客たちが見張り、対戦相手である悠にも気付かなさずに異様に長い髪の毛に包まれ奇妙な立ち姿で現れている。

【黒呪の亡霊】因幡良
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