ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

負けるわけにはいかない……私は……絶対に負けるわけにはいかないのだ!

『何だその突きは!?ハエが止まるぞ!』

私は父が嫌いだった。

『立てい軟弱者!!そんなことで私の跡が継げると思うか!!?』

『何がバリツだよ!!時代遅れの武術なんてこっちから願い下げだぜ!!』

14の時、私は家を飛び出した。

『うおおおまたモキチの勝ちだ!』

『相手はボクサーだぞ!?』

『さすがモキチ!イーストエンドのキングだぜ!』

復讐のつもりだった。裏社会に飛び込んだ私はバリツを使い、悪事の限りを尽くした。

わかっていた。

親父は不器用だった。本当に、不器用な男だった。

そんな親父が唯一、私に伝えようとしたもの……それがバリツだった。

怖かった。父の期待……応えられる自分。失望されることが恐ろしかった。

私は逃げたんだ。悪徳の限りを尽くし自由になったふりをしていただけ。

何の意味もない人生。



茂吉「う゛お゛お゛ぉっ…!」

雷庵「おっ?」

目突きによって生まれた隙を逃がさず茂吉は首を絞めている雷庵の右手の小指を掴んだ。すかさず技を仕掛けて首から手を解いた。そしてそのまま雷庵から後ろに飛び下がって距離を置いて構えをとる。

茂吉「ハァハァハァーーハァーー…。」

失った酸素を肺に脳に送るために呼吸を整える。

鞘香『上手い!茂吉選手エスケープ成功!!』

雷庵「遅えんだよッッ!!」

だが、魔人は止まらない。飛び込むような勢いで膝蹴りを腹にぶつけた。

茂吉「オ゛エ゛エ゛ッ」

雷庵「オラ立てよ」

茂吉「ぐっ」

値反吐を吐きつつも歯を食いしばって魔人へ立ち向かう。横薙ぎに腕を振るい雷庵の頬、目じりの皮膚の一部を削り取った。

雷庵「カカカッ!どうした!かすり傷しかついてねぇぞ!」

茂吉「うおおぉぉっ!」

鞘香『おおーーーっと!!茂吉選手、ここにきて執念のラッシュだアアア!!』



そんな私を変えたのは、お前だ……エレナ。

『ああ?親父が死んだァ?』

突然の連絡を呼び出されたのは教会。

『やぁ。君が茂吉君だね?生前、お父上に君の世話を託されてね。この子はエレナ・ロビンソン。君の異母兄妹だよ。』

『兄妹!!?』

『茂吉君。君も今日から私たちの家族だよ。』

『ハァァ!?』

小さなエレナは私になついてきた。何をするにも後をついてきた、食事も私と一緒に食べるといってわざわざ待っていてくれた、子犬に追いかけまわされた私の後ろに隠れたりもした、親父の墓参りに私を連れていってくれたのもエレナだった……。

お前のお陰で【血】の尊さを知った。

私はもう逃げない。この身に代えても必ずお前を護る!!!

怒涛の攻めに転じる茂吉。だが、それでも……雷庵という魔人には届かない。打撃は全て弾かれ、少しでも攻め手が緩めば強烈な一撃を仕掛けられる。

熾烈な戦いを妹は泣きはらした目で見つめている。

私にはわかる。兄様はもう……!このまま闘い続けたら兄様は……そんなのはイヤ!兄様もうやめて!もう十分頑張ったじゃない!!兄様が無事なら誰に負けたって構わない!!

その時、ふと思い出した。幼い頃に兄に尋ねたことを……。

『え?私が闘う理由かい?それはね……世界一大切なエレナを護れる強い男になるためだよ。』

私にできること……私にできるのは、兄様を信じることだけ!!

エレナ「まッ……負けないで兄様ああああっ!!」
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