ｰ絶命闘技会ドーム:闘技場ｰ

阿古谷の超反射速度から繰り出されるローキックが春男の左膝を弾く。パァァンッと銃でも発砲したの様な肉を打つ音と共に体勢が崩れる。度重なるカウンターに超巨体もダメージが効いてきている証拠だ。

春男「お……俺は強いんだ……!フーフー……ヒマラヤで一番強いんだ!!!つ…強いんだ……俺は強いんだ…強いんだ……!!」

気迫は衰え当初の機動力も失いズルズルとした歩みで阿古谷に近づいていく。

瞬花『阿古谷、そろそろ決めるよ。』

阿古谷「…承知。」

伝令を受け処刑人は前へと駆けた。

春男「う゛ッッ!ヴォオオオオオッ!!」

向かいくる阿古谷に一瞬ひるむも叩き潰そうと拳を振り降ろす。しかし、その一撃を正確に弾き流し、再び左ひざ裏を掬い抉るようなローが着弾した。

これにはダメージが蓄積していた膝では耐えきれずに巨体が前倒れに崩れる。すかさず阿古谷は春男の後頭部を両手で引っ掴むと引っ張りこむと同時に飛び膝蹴りを顎にぶつけた。

渾身の一撃、常人なれば確実に死んでいただろう。

阿古谷「俺の正義を邪魔する者に情けはかけない。」

春男「がっ……!」

巨体落ちる。仰向けで倒れた春男は動かない。

阿古谷「執行完了。」

選手入場口から河野秋男が顔を真っ赤にして叫ぶ。

秋男「は、春男オオ!!な、なにしてるんだお前ーーーー!!この役立たずがアアアア!!立てええええ、立つんだ春男おおおおお!」

無茶苦茶に怒鳴るが春男はピクリともしない。レフリー山本が近づくと声をかけた。

レフリー山本「河野!まだやれるか!?河野!?……担架を用意してくれ!大至急だ!勝負あっ……」

救護班に指示を出し決着の宣言をしようとするとレフリー山本が振り上げた手が巨大な何かに遮られた。

阿古谷「!!?」
瞬花『!!?』

レフリー山本「……なんだ?!」

何が起こったのかとレフリー山本が振り返ると河野春男が……立っていた。立ち上がっているのだ。

春男「……」

阿古谷「(意識は戻っていない…だが……なんだ、この圧力は?)」

闘技ドームの最上VIPルームから独特の民族衣装を着た老人と若者が見つめていた。それは春男……否、ハルの故郷であるヒマラヤの友と長老だ。

老人「ヤクよ、戻ってきたぞ。」

ヤク「……ああ、そうだな長老。」

ヒマラヤ最強の戦士、ハルが戻ってきた。

春男「……ケナイ……戦士ハ……負ケナイ……」

意識は戻っていない。闘争本能が無意識に立ち上がらせたか。だが……その圧力、満身創痍の男のそれではない。

瞬花『大丈夫だよ阿古谷、河野春男は解析済み。何度立ち上がろうが、私達には決して勝てないよ。』

そうしている間に春男の巨体がユラッと動いた。瞬間、今までの比ではない速度で距離を詰め巨拳が阿古谷を打った。

阿古谷「!!?」
瞬花『!?(速い!)』

河野春男の「間」が変わった!!

突然の強襲だが間一髪で阿古谷のガード間にあった。間にあったのだが……変化したのは速度だけではない。攻撃の質が変わっている。ガードの上からでも骨に響いている。

阿古谷「ぐっ(いったい何か起こったのだ)」

瞬花『耐えて阿古谷!再解析する!』

超剛腕の連射が阿古谷を滅多打ちにする。