ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー大江戸城麓・大広場ー

悠「何もみえないな」

広場の前には演壇が設けられているらしいのだが、遠くておれたちのクラスの位置からはほとんど見えない。スピーカーだけは広場の各所に引かれているらしく音声だけは聞こえる。

新「ふあぁ…」

おれの隣で新が大きなあくびをした。さもありなんだ。さっきからデブダルマ…もとい、瑞野校長の訓示が続いているのだが、これが果てしなくつまらない。こういうのはどこも一緒だな。特別な大江戸学園だろうが、本土の普通校だろうが変わらない。校長の話というのはつまらないのだ。




先程、遠山朱金の北町奉行所が警備をしていたのと逆の広場外れ。こちらでは同じく逢岡想の率いる南町奉行所が警備を任されていた。

想「わかりました。では」

神妙な面持ちでケータイを切った想は配下の者に指示を与えていく。





派手な着信音に注目が集まる。気にするのともなくケータイを取り出す新。

新「あ、わたしだ。はい、もしもし!」

着信音に負けず劣らず元気な声でケータイにでる新。

悠「おい…」

さすがに目立ちすぎだろ。

由真「新……」

新「あ、ごめん…」

周りに気をつかって由真が肘でつつくと少し小声になったが、新にケータイを切る様子はない。っか、全校集会の最中にかけてくる奴は誰なんだ?生徒はみんなここに集まってるんじゃないのか?

新「うん、うん…」

見ているとケータイを受けている新の表情が次第に真剣になっていくのがわかった。

悠「いったい、なんの話をしてるんだ?」

新「わかった。すぐいく!」

ケータイを切ると新は列を離れて出ていこうとする。

悠「おいおい!一体どこに行くつもりだよ!」

思わず新の腕を掴んでしまう。

新「ミッキーがね、すぐに来いって」

悠「光姫さん?で、でもなんでそっちなんだよ。」

新は生徒の列を掻き分けて、広場正面への演壇に向かって直進していた。

新「だってミッキーは…」
そのときだった。
広場の各地から不意に鬨の声が上がった。

悠「な、なんだ?」

ちょうど20メートルほど離れた場所でも声が上がっていた。声をあげたのは見覚えのある天狗面を被った生徒だった。

天狗党は鬨の声と共に刀を抜き、広場の前方へと走り出していく。おれたちと同じ演壇を目指しているようだ。生徒の数が多すぎて遠くの様子は分からないが、至るところで同じように天狗党が決起しているようだ。天狗党の鬨のこえに続いて、生徒たちの混乱の声が広がる。

新「はぁぁぁぁぁっ!」

天狗党員A「ぐあっ!」
天狗党員B「がはっ!」

新「悠、急いで!」

悠「お、おう!」

新に促され、わけのわからないままにおれも同じように駆け出す。すでにクラスごとの列は崩れつつあり、その間を掻き分けつつ、おれたちはとにかく前へと進む。
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