ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

阿古谷清秋の反撃開始により観客の熱も増していく中、白衣を着た男のひと言に側に居た、帝都大学秘書(兼看護師)の吉沢心美が聞き返した。

心美「反射……速度…ですか?」

帝都大学代表闘技者(兼医者)の英はじめがビッと指を立てて話す。

英「そう!阿古谷清秋。彼の反射速度は常軌を逸している。人間の反射速度の限界は0.08秒~0.1秒と言われているのは知ってるかね?」

心美「……そうなんですか…」

英「私の見立てでは、阿古谷清秋の反射速度は75ms。これは驚異的な数値だよ。」

心美「0.075秒!なんかすごそう!」

英「ふむ……一体どのような方法であの超反応を可能にしていたのか…実に興味深い。……彼が死んだら是非解剖してみたいなぁ……ねえ、吉沢君。彼、速く死んでくれないかなぁ……?フフフフッ……。」

心美「ひぇ…。」


闘技者入場口から秋男が激を飛ばす。

秋男「クッ!余裕をかましやがって。春男!!はったりに騙されるな!さっさとやってしまえ!!」

春男「ッッ!」

秋男「さっさとしろノロマ!!国に送り返されたいのか!!」

帰る…?あそこに……?ゲームも漫画もパソコンもない、あの村へ帰る!?…………嫌だ!!

春男「帰ら゛な゛い゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」

怒りと執念、というよりはもはや欲望という怨念に憑りつかれた巨人は両腕を同時に振り降ろした。

しかし、モンゴリアンチョップが着弾するよりも先に阿古谷の下突き×4(0.076/s)が炸裂。

血を吐きだして上半身が下がる春男、そこに追い打ちの右肘打ち下しが着弾する。

鞘香『きッッッ効いたアアアア!!!大巨人・河野春男、阿古谷選手の打撃に轟沈だアアア!!』

「「「ウオオオオオオッッ!!」」」

観客席にいる右腕をギプスで固めて吊っている【氷帝】の氷川涼が隣に居る金田末吉にいった。

涼「金田…あの技、お前の攻撃予測にそっくりじゃねえか?」

末吉「……(いや、違う。一見、私の攻撃予測と同じに見えるが……なんだこの違和感は……?)」

後頭部を押さえながら春男はヨロヨロと身体を起こした。

春男「ヴヴヴヴ…!!こッッッ…このヤロオオオオオオオッ!!」

力任せで横なぎに腕を振るって張り倒そうとするがドスッという何かが突き刺さる音ともに止められた。

紅「あれは!」

画面では阿古谷の固められた指三本が切り裂いた傷口に突き刺さっている。さっきの技は皮膚をカットして「直接肉を抉る」のが目的だったのかよ。やっぱり性格悪いぜ…。

春男「ヴオオオオォッ!」

それでも怒り狂った巨人は止まらない、残った腕で叩き潰そうとする。しかし、阿古谷は耳の中の機械の振動に合わせ攻撃を避け側面へと回り込みリバーブローを二発放った。

城「リバーブロー!」

凛「これは効いたッスね!いやーあれは痛いッスよ。されたことないけど。」

隣で闘いに熱中してる二人に対して久秀は何かが引っかかっていた。

久秀「(上手くは言えないけれど、あの阿古谷という闘技者……まるで誰かに操られているような……。)」

闘技ドーム最上階の廊下の窓から檜山瞬花が手に持ったスイッチを押すと阿古谷が反応し春男の攻撃を避ける。そして強撃でカウンターを仕掛ける。

瞬花「よし、完璧だ。」

私が解析するのは「間」。早い話が「呼吸のタイミング」だね。それは最も無防備をさらけ出す瞬間。呼吸のパターンには必ず法則性がある。……もちろん人によって異なるけど。

私の体内時計を使い、相手の呼吸パターンを解析。後はパターンに合わせて信号を送るだけ。常人の反射神経しか持たない私に出来るのはここまで。

この作戦が可能なのは、元々驚異的な反射速度を持つ阿古谷がパートナーだから。

連携を可能にするため、反射に特化した訓練に膨大な時間を費やしてきた。それは気が遠くなるほどの反復練習。

この戦法の肝は、思考を完全に放棄し、反射のみで攻撃すること。

従来→『認識』→『思考』→『伝達』→【行動】

阿古谷→『信号』→『伝達』→【行動】

相手の行動が分かっていれば、事前に動けるぶん対応速度も分かるわけさ。

阿古谷は「躊躇」を知らない。
阿古谷は「正義」の為ならば、いかなる行動もいとわない。
阿古谷は「正義」を実行するためには、いかなる努力も惜しまない。

そして、長い鍛錬の後、阿古谷清秋は完成した。今の彼は、私が操る戦闘マシーン。

今の私たちならば、「滅堂の牙」に勝てる。
27/100ページ
スキ