ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

闘技場では既に第二仕合が始まろうとしている。片原鞘香が闘技場の中央でマイクに叫ぶ。

鞘香『それでは興奮覚めやらぬうちに一回戦第二仕合を開始します!!NENTENDO河野春男!!若桜生命阿古谷清秋!!両者入場!!』



同時刻、東京某所……。

ヘルメットに作業着姿の若者や中年の男たちが豪邸の前で集まっている。

「よっしゃあ!飯にするべ!おう新入り!オメーもだいぶ仕事覚えてきたな!今、定時制高校に通ってるんだって?卒業したら社員になっちまえよ。」

「マジすか!?それスゲー助かるっス!あ、飯の前にネコ(一輪車の通称)片しときます!」

「おう、早くしろよー!」

なんて会話をして一輪車を片付けにいった若者が妙な会話を耳に挟んだ。

「やっぱおかしいよなー。」

「だよなー。」

声の方へ目を向けると監督と数人の作業員が集まっている。

「監督?どうしたんすか?」

「おうヤス。……そうかお前はしらねぇか。実はな、ここの屋敷半年前も修繕工事したばっかりなんだよ。その時も俺が仕切ってたんだよ。」

「えっ?」

見上げた先、豪邸の三階の部屋から二階にかけて窓は割れ壁は砕け深い亀裂は一階にまで届いている。

「いったいどんな住み方すりゃあ半年でここまで壊せるんだ?」

「金持ちのやるこたぁわっかんねぇな~」

「か……怪獣でも飼ってるんすかね……?」

「ハハハッ!案外そうかもしれねぇな。」

その屋敷の表札には「河野」と書かれている。


ネパール連邦国民共和国

世界屈指の山岳国であるこの国には複数の山岳部族が存在する。

ヒマラヤ山脈標高5000メートル付近にある部族の村があった。この村には「怪童」と呼ばれる少年が居た。

少年の名はハル。

少年には数々の伝説がある。6歳の時すでに、大人を軽々と持ち上げる怪力振りを発揮。10歳にして村一番の大男となる。11歳の時、村を襲ったユキヒョウをたった一人で仕留める。等々……そして極めつけの伝説は……。

顔に部族特有の刺青を施し裸に腰布、そして口元を覆った男が真剣な顔で若者たちにいう。

「良いな、お前たち?これより成人の儀を行う。過酷な試練となるだろう。心しておけよ。お前たちは崖の下に降りてもらう。崖の下にはヒマラヤヤギが生息している。各自、一頭ずつ仕留め、崖上まで運んでくるんだ。道具はナイフ一本のみ使用を許す。さあ、誰から始める?」

「先生、俺がいく。」

名乗り出たのがハル、この時15歳である。その身体は周りの同級たちとは比べられないほど屈強かつ巨体、先生と呼ばれた成人男性よりも巨大なのだ。

先生「ハルか。よし、お前が一番だ。」

「ちょ!ちょっと待ってハル!」

そう声をかけたのはヤクという名前のバンダナと赤い布を首に巻いた若者だ。

ハル「どうしたヤク?」

ヤク「何ってお前!ナイフ忘れてるぞ!ほら。俺のヤツを持ってけよ。無くすなよ?」

ハル「……ありがとう。でも、必要ない。」

ヤク「なに?」

ハル「みんなちょっとだけ待ってて。」

ヤク「おい!ハル!」

止める間もなくハルは駆けだした。そして断崖絶壁、訓練された部族であっても落ちたらタダでは済まない崖を飛び降りたのだ。

ヤク「と、飛び降りやがった!」

先生「あの馬鹿!死ぬ気か!!」

全員が慌てて崖の淵まで移動して舌を覗きこんだそこには……。

「「か、駆け下りている!?この急斜面を!!??」」

ほぼ垂直の崖を二足で駆けていくハルの姿がどんどんと小さくなっていく、そのハルの目にヤギがハッキリと捉えられる距離になると今いる崖からヤギのいる崖へと飛び移ったのだ。

ヤク「先生、ハルは見つかった?」

既に崖上からは見えないハルの姿を何とか確認しようとしている。

先生「……戻ってきた!」

崖を駆けることは異常であるが後先を考えなければできなくもない、だがその逆はどうであろう。断崖絶壁の崖を道具なしで登り上がらなければいけない。だが、その男は猛スピードで駆け上がり遂に最後は飛び上がって崖上に着地したのだ。

ハル「ヤギがたくさんいたから…みんなの分も取って来た。」

そういったハルはヤギを6頭肩に二匹背負って、両腕に二匹ずつ抱えているのだ。

先生「あ、ありえない!!」

ヒマラヤヤギの雄の成獣はおよそ80キロ。ハルが持って帰ってきたのは雄の成獣ばかりで6頭、実に480キロもの重量を抱え、この崖を駆けあがってきたってのか!!?たった15歳のガキが!??


この日、ハルは部族最強の戦士と認められた。
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