ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

摩耶は自分の髪を両手でかき上げるとタックルでもするように身をかがめ出す。

鞘香『おおーっと!?摩耶選手、身体を低く構え直した!!』

アダム「ほお…!!」

あのボウヤ、腹を決めたかい。面白ぇつきあってやるぜ!

アダムはしっかりと両足で地面を踏みしめ正面に来るものを叩き潰すといわんばかりに右の腕を振り構えた。

鞘香『あああーーーっと!!続いてアダム選手も構えを変えたーーー!!両社距離を取ったまま構えを変えました!』

ジェリー『……おそらく二人トモ、この一撃デ勝負を決スルつもりデス…』

鞘香『な、なるほど…』

アダムと摩耶、二人はの闘士は互いのを睨み合う。一同一挙一呼吸も見逃さない、勝つのは自分だという確固たる意志のぶつけ合い。

息が詰まりそうなほど濃密で長い長い数秒……。

摩耶「!!」
アダム「!!」

仕合を見ている闘技者たちがその時に反応した。

「「「「動く!!」」」」

低い体勢のまま前進する摩耶、それを迎え撃たんと今日一番の打撃を振りおろすアダム!

アダム「ハイスティックショット!」

摩耶「黒状態(ブラックモード)発動!」

死神が命を刈り取る大鎌を振りおろすが如くアダムの死の一撃が摩耶を地面へと叩き落とした。

摩耶「がはぁっ!」

鞘香『き…決まってしまったぁーー!!』

アダム「Hahahahーーーー!!」

突っ伏している摩耶の胸ぐらを掴んで釣り上げさらに拳を叩きこむ。

鞘香『突き付けられた非常な現実!圧倒的パワーの前には神うぁざテェニックもなすすべなしだぁァ……

アダム「コイツぁ最高のサンドバッグだぜぇ!!HIYHIY!どうした小僧かかってこいやぁぁ!!お楽しみはこれからだぜぇ!!」

地面に倒れて動けなくなった摩耶に何度も何度も拳を落としていく。

レフリー山本『それうまをぇ!』

アダム「ハァハァ……チッ、何だよレフリー?もうストップかい……は?」

レフリー山本『それうまえ』レフリー山本『それまずえで』レフリー山本『そうおえあー』

振り返ると景色が歪んでいる人が建物がぶれて聞こえてくるはずの音も何かおかしい。

W…WhatTHEFUCK(な、なんだこりゃ)!?いったい何が起こってやがる!!?

アダム・ダッドリーは気がつかなかった。それを目撃するまでは……

ば……馬鹿な!?


それは一見すると子供が大人を支えているような姿。


あ……あ……アレは!!


摩耶の小さな右手はアダムの首を押さ、左手は胸のあたりに添えられている。そして肝心のアダム自身は白目をむいていた。


俺だ!!


アダム「ごっ……ぉっ……」

摩耶「ふー……おやすみ、アダムさん。」

鞘香『お、オチたァァア!!完ッッ!璧に決まった!!いったい何が起こっているのかわかりませんが【黒天白夜】摩耶選手、拳法家の矜持を見せたアアアアッ!!』

感極まる観客たちの大声援のなかプロレスラーの関林ジュンが声を張っていった。

関林「野郎!派手に決めやがったぜ!」

金剛「ああ。恐らくアダムは技をかけられたことすら認識していないだろう。黒状態(ブラックモード)相変わらず厄介な技だ。」

黒状態(ブラックモード)の本質、それは相手の意識が「攻撃のみ」に集中する瞬間、0.1秒にも満たない刹那を見極め、意識の刺客に潜りこむ技術。

結果、相手の目には摩耶が突然消えたように映る。

恐らく、アダムは気付いてすらいないだろう。

アダムの認識:タックルをカウンターでKO。

しかし、現実で起こっていたことは摩耶は直前でタックルを停止し、ハイスティックショットを掴み取った。不意を突かれたアダムの隙を逃さず一瞬で懐に入りこみ右手で喉(頸動脈)を押さえ、左手で胸(肺)を穿った。この間、わずか一秒。

そして潰れた肺からは空気が押しだされるが、供給口である喉と脳へ送られる酸素の管である脈は押さえられている。その結果は……ブックアウトである。

この技を摩耶は【絶掌:天獄】と名付けている。優しく意識を刈り取る首の右手と肺ではなく心臓を狙えば生命与奪の権利を持つ左手による天と獄の掌。

関林「……金剛よぉ、お前、同じことができるか?」

金剛「無理だ。というより、こんな闘い方ができるのは摩耶ぐらいだろう。摩耶……お前は間違いなく天才だよ。」

アダムはタンカーに乗せられて運ばれていき残った摩耶にレフリー山本が叫んだ。

レフリー山本「勝者!!摩耶ッッッ!!」

摩耶「いえーい!あー、つかれたぁ……。」

顔や手足は擦り傷や痣だらけ血でまみれ拳法着など首から右肩にかけて破れててボロボロな姿でも摩耶は笑顔を観客に向けて手を振った。

「摩耶ー!よくやったー!」
「「まーや!まーや!まーや!」」

ロナルド「うぅ……!ウフフ……!ウウフフフ!負けた負けた負けた負けた!あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

何かが壊れてしまったらしくピエロメイクの社長ロナルド原口は仰向けに倒れて爆笑し続けている。

それを眺める禍谷園の社長の禍谷重蔵が険しい顔のまま言った。

重蔵「ヌフフ。これで一人脱落だ。」

禍谷園代表闘技者の鬼王山尊は鼻で笑う。

鬼王山「フン。どんくせえ白人だぜ。俺なら落とされる前にアイツをぶち殺せたね。」


声援を受けながら摩耶は闘技場から選手控室に通じる廊下へと歩んでいく。

そこでは西品治と鈴猫が出迎えてくれていた。

鈴猫「おめでとう摩耶君!」

西品治「お疲れ。辛勝って所だな。少し休んだら飯でも食いに行こう。」

摩耶「へへ……へっ……」

笑顔で近づいてきていた摩耶だったがその歩みはフラフラと揺れて前に倒れかけた。

鈴猫「摩耶君!」
西品治「摩耶っ!」

鈴猫が摩耶を抱きしめるとその胸元にゴフッと鮮血が散った。

摩耶「ははっ……ごめん、服……汚しちゃった……。」

鈴猫「そんなのいいよ!すぐに医務室にいかなきゃ!」

西品治「人を呼んでくる!ここで待っていてくれ!」

駆けだしながら西品治は脳裏によぎった。摩耶がここまでダメージを負うとは…!このトーナメント想像以上にレベルが高いぞ…!
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