ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

観客たちが大盛り上がりの中、ジェリーは観客席から解説席に身を乗り出してきた。

ジェリー「間違いない。アダム・ダッドリー。」

鞘香「(何なのこの人……?)」

北米4大スポーツのひとつ、アイスホッケー。

元々、アイスホッケーとは軍人たちの間で発展したスポーツといわれてイマース。コンタクトプレーの激しさは、フットボールにも匹敵する氷上のマーシャルアーツ。

アダム・ダッドリーあの男は、プロホッケーリーグNHLのチームで名を轟かせた男デス!


距離を取った摩耶の脇腹、アダムの拳がわずかにカスった部分の皮膚が服もろとも裂けてわずかに出血した。白い拳法着が赤く染まる……。
 
摩耶「~~ッッ(マジかぁ…カスっただけなのに……ただの手打ちがどうしてここまで響く!?)」

裂けた傷口より内部、明らかにダメージが内臓に響いているのだ。

するとベキッ、メギッと何か歪な音が聞こえた。アダム、対戦相手の男が立ちあがっていく。それも普通の立ち方ではない仰向けの状態から見えない糸にでも釣り上げられていくように上半身が持ち上がっていくのだ。

どーなってるんだよ、コイツの身体!?

鞘香『なっ!?何だこれはーー!!?アダム選手、非常に不自然な姿勢から起き上がってきたアアーー!!!』

身体の起き上がる角度が増していくたびにビキッバリッと地面を踏みしめている足下、硬い地面が砕けていっている。

アダム「悪いなBOY。俺のフィールドに戻ってきちまった。」

雇い主のロナルド原口が今までと違う陽気ではなく邪悪な笑みを浮かべた。

ロナルド「フフ……ようやく火が点いたかね。さあアダム。見せてやりなさい君の力を……。」

アイスホッケー裏名物「ホッケーファイト」というものをご存知だろうか?

アイスホッケーとは地上で唯一「選手同士の殴り合い(ステゴロ)が黙認されている」近代スポーツである。

だが、意外なことにこの闘い、KOで勝敗が決することは、ほぼ皆無である。

原因は氷上という特殊に地形だ。スケートリンクの摩擦係数は0.005。リンクとはいわば一本の網の上である。バランスを保つだけで精いっぱいのこの環境、手打ちの打撃しか繰り出せないのだ。

だが、しかし……そんな悪環境の中で、手打ちの実でKOを量産してきた男が居た。テキサス・スノーマンズお抱えの「乱闘要員」アダム・ダッドリーである。

アダムがKOを量産できた秘密は、鍛え抜かれた「体幹」にあった。異常な隆起を誇るアダムの脊柱起立筋。異常発達した体幹は力の伝道効率を大幅に上げ、手打ちだけでも相手を昏倒させる十分な出力を可能にした。

もしも、足場の安定した地上で全身を連動させた打撃を打てば……。

摩耶「ふー……。」

足を止めちゃあダメだ。スピードでかき回して一気に押し切る!!

恐れることなく小さき闘士は猛進し、間合いを詰めると高速連打を放った。一気に畳みかけようとしたが、突如その翻弄する動きが止まった。

否、止められたのだ。
巨大な手が服の右肩辺りを掴みあげている。

アダム「ENOUGHFOREPLAY(前戯は十分だ)。ILLNAILYOU(ぶち込んでやるぜ)!!」

左腕の筋肉が盛り上がり摩耶の横っ面に振りおろされた。
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