ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

前倒れになったアダムは立ち上がろうと仰向けになるがそうはさせまいと摩耶が膝をその胸板に叩きつけた。

アダム「グッ!」

実況解説席から鞘香の声が飛ぶ。

鞘香『おおーーっと!アダム選手これは危ないぞ―ー!!小柄な摩耶選手がグラウンドの攻防!そのテクニックは本物だーー!アダム選手、この窮地から逃れられるか!?』

解説席の後ろの席で予選で悠に倒されたジェリー・タイソンが目を細めて何かを見ている。

ジェリー「ふうむ?あの男、どこかで見たような気が……?」

小さなこの男を弾き飛ばして立ち上がろうとするも完全に足を抜かれ、片腕を押さえられついにはマウントポジションを取られてしまった。

摩耶「はい、登頂完了。驚いた?拳法っていうのは柔術系統にも精通してるんだよ。」

アダム「……」

摩耶「ストライカーのアダムさんにとってこの体勢は致命的。もう終わりだよ?」

馬乗り、いわゆるマウントポジションを取られた相手は、腕の可動域が狭くなる。また、寝そべった状態では腰が使えないことで全身を連動させた打撃を打てないのだ。

アダム「……クククッ。勝手に終わらすんじゃねぇよ。勝ち誇るなら俺を倒してからにしな、MR.PENIS.HEAD」

ギラッと前歯の填め物に掘られた「FUCK」の文字を光らせて不敵に笑うアダム・ダットリー。

次の瞬間、拳が縦振りで顔面に落ちる。

摩耶「OK。こっちもそのつもりだよ。ラストまでずっと僕のターンだよ。」

文字通り力任せに拳を何度も何度も何度も顔面へ向けて振り落とした。一見すると大人が子供に馬乗りして駄々をこねているようにも見えるが響く打撃音と飛び散る鮮血がそんな生々しいものではないと誰しもに決定づけた。

鞘香『おおーーーっと!一方的な展開になってまいりました!一転攻勢した摩耶選手、パウンドの雨あられ!アダム選手、万事休すかーー!?』

ガードを固めながらも滅多打ちになっているアダムを凝視し、その名前を反芻していくうちに思い出していた男が身を乗り出して叫んだ。

ジェリー「思イ出シマシタッ!!」

鞘香『うわあっ!?』

摩耶「ハァハァ……ハァハァ……。」

殴り続けていた摩耶の手が止まる。

この男(ひと)これだけ殴っても隙を見せない……これじゃあ、決定打が与えられない……。

アダム「ククッ……どうしたBOY?キャットファイトしてんじゃねぇんだぞ。そんなプッシーパンチじゃネズミも殺せねぇよ♪」

痣と血で汚れその顔は今だに不敵な笑みを浮かべられる余裕がある。

摩耶「…は?」

アダム「見せてやるよ…これが本当のパンチだ!」

拳を握りしめダッドリーはパンチを放った。

その行動に観戦していた義伊國屋書店闘技者の金田末吉とムジテレビ闘技者の大久保直也が驚きと呆れを見せる。

末吉「撃った!?」

大久保「アホやなあの白人。とんだ悪手やで。腰の入ってへん打撃で、人間ブッ倒すなんてまず不可能や。ましてや相手はあのボン(摩耶)。半端な攻撃なんぞしたら一気に持っていかれるで。」

とうぜん、摩耶もそのつもりだ。できた隙を逃がすわけがない。このまま腕を捩じりとって顔面を膝で潰す。インパクトと同時に極める。

摩耶「!?」

拳が摩耶の横腹に当たろうとした寸前、アダムの身体から大きく横に飛び退いて、さらに大きく距離を取った。

大久保「何や?」

西品治「避けた?」

鈴猫「あんな手打ちを?」

鞘香『おおっと?摩耶選手ここでマウントを解いた!下からの打撃を警戒しすぎたか?』

雲山「あれで正解ですね。今の一撃、躱さなければ勝負は決していたかもしれません。」

理乃「まぁ、そうなの?」

本日仕合のない雲山は座っている理乃の身体に背中を預け、理乃はそんな雲山の首に腕を回してくつろぎながら試合の様子をテレビ(島のどこに居ても仕合内容が放映されている)で眺めていた。ちなみに、秘書コンビと風来コンビもいるのだが当然ツッコミは入らない。
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