ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【4】

ー巌流島:ホテル内フロアー

開いた扉からゆっくりと二人の人間が入ってきた。先頭に立つのは背の高い老人だがその顔には酷い火傷跡がある。

義武「あらあら。噂をすれば影ね。よく見ておきなさい。あれが闘技会現最大派閥「百人会」の中心人物、東洋電力会長速水勝正。次期闘技会会長に最も近い男よ。」

速水から発せられている迫力は老人の者とは思えない重圧(プレッシャー)。義武と城はごくりとからからに乾いたのどに唾を通した。

久秀「(そっくりね。滅堂会長の気配と。)」

無意識に拳を握る久秀、他の代表者たちも一様に警戒の色を見せている。

本郷「フッ……」

本郷モータース社長:本郷千春

とまり「(気にいらねぇ……気にいらねぇなぁぁっ~!)」

岩美重工社長:東郷とまり

熱海「(早くも勝者気分ですか…舐められたものです。)」

ムジナテレビ会長:熱海久

義武「松永さん、忠告してあげる。あの男には気を付けなさい。百人会は他の派閥とは決定的に違う。速水という男を頂点とするピラミッド組織よ。すでに相当数の闘技会員を服従させているらしいわ。とにかく黒い噂の絶えない危険人物なのよ。」

久秀「ご忠告、感謝しますわ。」

見るだけで分かる……。曲者ぞろいの闘技会の中でも、この男は特異の存在。

城「ハッ!?け、ケンさん!?」

速水の後ろについている男を見て城は驚いた。ほんのついさっきまで仲良くしていた義伊國屋書店会長の大屋健である。

その姿は半酔っ払いでラフな格好をしたおちゃめなおじさんとは打って変わってスーツで決めた眼光鋭い顔つきだ。

大屋「……」

城が声をかけるもののまったく無視して通り過ぎた。速水会長の後についていっている。

速水「大屋会長、色好い返事を期待していますよ。くれぐれも、つく側をお間違えの無いよう…。」

口調は優しいが見えている側の右の目玉は射殺さんばかりの念がこもっている。

大屋「……お心遣い、痛みいります。」

城「ケンさん……どうしちゃったんですか……。」

城かなにか打ちひしがれている先とは別に方向に久秀は視線を向けていた。

久秀「……」

義武「何よ?どうかしたの?」

久秀「あの太い男にさっきからなにか見られている気がしてね。」

少し離れたところで大きな腹をしてデッカイサングラスの男が居る。

義武「あら?アンダーマウント社の太田社長じゃない。」

企業から10年。革新的なサービスを矢継ぎ早に発表して急成長を遂げたIT企業。闘技会に加入してわずか5年足らずで企業序列上位に食い込んできた実力は企業。

久秀「あれが?どう見ても冴えないおっさんなんだけど」

義武「なのよねぇ、でも手腕は本物よ。それにしても何か恨みでも買ったんじゃないの?」

久秀「あら、失礼ね。久秀はそういうことは上手くやってきているのよ。それに恨みを買われるような相手なら忘れないわ。」

吸い終わったタバコを携帯灰皿でもみ消すと矢継ぎ早に新しいのを咥える女性が居る。皇桜学園会長の奏流院紫苑。

紫苑「(チッ……いつまで待たせてやがる)」

「吸い過ぎは美容に悪いですよ奏流院さん。」

紫苑「余計なお世話だよ坊や。」

出やがったな…さわやか野郎。

ナチュラルヘアにもみあげからつながった薄い顎ひげを生やしたしっかりと焼けた肌をしたまだ青年と言えるほどの若者。

西品警備保障社長:西品治明

そしてそのそばに居て緊張の色が明らかに隠せていない女性。

桜花フラワー社長代理:桜花鈴猫

西品治「ハハハ!坊やは酷いなあ。僕たち、そんなに歳は違わないでしょう?」

にこやかに返事を返すさわやか野郎とは対照的に明らかに不機嫌な笑顔で返す紫苑。

紫苑「……ヘラヘラしてる場合じゃねえぞ。次に年のことを言ったら殺す。うちの闘技者は規格外の化け物だ。せいぜいうちと当たらないことを祈っとくんだな。」

西品治「へえ…それはすごいなあ!うちの後輩が壊されないように気をつけないと!ねぇ、桜花さん」

鈴猫「は、はい、でも摩耶君は大丈夫だと思います。」

相変わらずのらりくらりとかわしやがる。コイツは何考えているか全くわからんと思った紫苑だったが気になることを聞いた。

紫苑「そちらのお嬢さんは誰だ?アンタに秘書なんていないだろ」

西品治「彼女は桜花鈴猫さん、ちょっとした理由でウチと共同で今回参加しているんだ。」

鈴猫「ど、どうもです。」

見るからに素直で真面目なタイプだがこういった場に慣れてなくそもそも一企業の代表ではないと一瞬で見抜いた。

紫苑「共同?そんな真似しなくても参加グループとしてだったらアンタのとこだけでいいんじゃないのかい?わざわざ代表を二人にする真似なんてしなくとも。」

西品治「ちょっとした闘技者からの要望でね。俺たちは上下の繋がりでなく対等ってことで話をつけているんだ。」

鈴猫「す、すいません。」

西品治「いやいや、謝ることではないよ。」

紫苑「ふぅん。ま、どうでもいいけどね。」
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