ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー闘技号:配電室ー

アグノスティックフロントと阿久はため息をついた。

阿久「はぁ……なぁ?もうやめにしねぇか?俺は闘技者枠さえ手に入りゃいいんだ。つまらん意地を張って怪我するのは損だぜ?」

摩耶「……アンタ、なんで闘技者になりたいの?強い奴と闘いたいってわけじゃなさそうだけど?」

阿久「……は?金のために決まってんだろ。」

摩耶「……」

阿久「俺はプロだ。報酬分の働きはきっちりこなす。それだけだ。」

摩耶「ああ、そう。なるほどね……うんっ!よくわかったよ♪……お前には闘技者になって欲しくない。」

何度かうなずき、ニッコリと笑顔を向けてからスッと両腕を下げ上半身を前傾にした。

阿久「バカが手間かけさせやがる。」

コイツ、構えが変わった。

摩耶「……」

阿久「……」

睨み合って一拍……摩耶が動いた。

この世には、天才と呼ばれる人種が居る。
摩耶、闘技会参加権を獲得するための闘技仕合がレビュー戦であった。その時の対戦相手は身長差30センチ、体重差40キロの巨漢。それに対して無名な企業かつ女の子とも子供とも見間違う摩耶を見て当初の反応は酷いものだった。

しかし、その評価は一変することになった。巨漢相手に一本勝ちという、鮮烈なデビューを果たす。その才能に疑う余地なし。摩耶は紛れもない天才である。


素早く間合いを詰めていく摩耶を見下ろす阿久は……知っている。中国拳法を得意としていることは。

俺はプロだっていっただろ?ほとんどの出場者のファイトstyleは調査済みなんだよ。テメーが間合いに入ったら最後……ゲームオーバーだ。近づいてくる摩耶を睨みつつ静かに素早く右手を後ろに回した、そしてベルトにセットしてあるホルダーからスタンロッドを引き抜きスイッチを入れる。電圧が違法改造されているそれはバチバチと鋭い音を立て雷が爆ぜている。

天才か何か知らんが、お前は俺の掌の上なんだよ。

ついに摩耶が目の前まで詰めてきた。それは阿久にとってのベストな間合い。

眠っちまいなぁ!完全なタイミングで摩耶の頭蓋にスタンロッドが振りおろされた。

ヒュッ……。

阿久「……あ?」

空振り?馬鹿な!あのタイミングでかわせるもんかよ!ど、どこだ!?どこに行きやがった!!?

目の前、しかも真っ正面から自分に近づいてきた人間が消えてしまって辺りを見回そうとしたが、グッと首に圧がかかった。後ろ!と思い振り返ったと同時……。

摩耶「おやすみ。」

阿久「カッ…」

やられたことは掌で首を押し込まれた。それだけのことだ。だが正確に頸動脈を圧迫し脳へ行き渡るはずだった血液・酸素の強制的なシャットダウン。結果……失神。

意識を失う刹那、阿久富士夫は悟った。人は己の理解の外に居る者を、「天才」と呼ぶことを……。

摩耶「うーん……ちょっとやりすぎたかな?けどしかたないよね。口先だけの人に闘技者の座は譲れないし。」

戦闘style:中国拳法
通称【黒天白夜(ブラック&ホワイト)】

泡を吹いて倒れている阿久をしり目に服についた汚れを叩いているとドゴンッという車と車が正面から衝突したような音がした。振り向いてみると摩耶の口から「あちゃー…」という声が漏れた。

金剛「……」

金剛の拳から血が滴っている。さらにその奥の壁は大きく砕けへこみ、その中心でミイラ男が張り付けられたように壁と半一体化している。少しすると力なくずるずると赤い汚れをこすりつけながら地面に落ちた。

摩耶「やりすぎだよ金剛君」

コンクリって素手じゃ割れないんだよね、普通……。ホントに金剛君はどんどん人間離れしていくなぁ~。……ま、圧倒的怪物の方が倒しがいがあるんだけどね♪

金剛「……脆いな一発で壊れちまった。」

鉄剛(くろがねつよし)こと【金剛】

闘技仕合戦績:306勝0敗

現役最短ならび歴代最多連勝勝利数闘技者
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