ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー闘技号:客室ー

白夜新聞代表闘技者:武本久安(たけもとひさやす)82歳、闘技会の中で最高齢の現役闘技者である。

45歳の時、武本流実戦拳法を創立。以来37年90回を超える野仕合を行い、そのすべてに勝利。

いつしか武本は……【武神】と呼ばれていた。


その武神が倒れている。血を流し倒されているのだ……。

白夜新聞社長:赤野鉄砂希(あかのてさき)は荒れ果て武神の血で汚れた部屋の隅の壁際で全身を振るわせて呟いた。

赤野「そ…そんな……武本が敗れるなんて……!」

倒れた武神の前に立つピッチリとした袖のない男性用アオザイとカンフーパンツをはいた端整な顔立ちの襲撃者が冷淡に言った。

「残念だったな。貴様の闘技者は戦闘不能。闘技会会長の夢はこれで潰えたわけだ。このままでは、参加費の50憶円はまったくの無駄金となるわけだが……」

赤野は襲撃者に向かって叫ぶ。

赤野「なっ!何なんだ貴様!何が狙いなんだ!!」

「貴様とて既に分かっているだろう。この役立たずの代わりに俺を闘技者として雇い入れろ。もっとも……俺が優勝したときには「ある方」を会長に指名してもらうがな。断るというのなら、今この場で貴様を葬ることになる。」

赤野「グッ……」

「決まりだな。よろしく頼むぞ「雇用主」。」

~~

船内の廊下で海一証券代表闘技者:乾町三(いぬいまちぞう)は振り返った。背後から迸る殺気、隠し切れていないわけではない。隠す気が無いのだ。

「はあぁぁっ…」

黒いボロボロの道着を身にまとい胴の部分を縄で締め上げた不気味な男が大きく開けた口から獣のように舌を垂らしながら近づいてきている。

乾「不運だな。狙う相手を間違えたぞ、お前。」

~~

夜の帳が降り、昼間は運動や日光浴を楽しめる公園エリアは今は薄明かりが灯されムーディな空間に変貌していた。

その中を歩く二人の男女の前にドクロのマスクを着けた不気味な男が立ちはだかった。

理乃「あらあら、兜馬さんのおっしゃった通りになったわね。」

ドクロマスク「……」

理乃「自身の息のかかった闘技者を送りこみ、会長指名権を強奪する。殿方たちは本当に政争が好きね。」

こんな強引なやり方をするのは……「あの方」かしら?

そう思案する理乃の隣に居た男が一歩前に踏み出して片手をあげた。ゴールドプレジャーグループ代表闘技者:百目鬼雲山はいう。

雲山「5秒で済ませる。待ってな、理乃。」

理乃「急がなくていいのよごゆっくりどうぞ。」

ドクロマスク「ニイィィッ。」


~~


発電室内の刺客たちも二手に分かれた。金剛の前に立ったのは全身を包帯で締め上げたミイラのような男。

金剛「どうした?来ないのか?」

包帯男「……」

金剛「……来ないならこっちからいくぞ。」

そしてもう一人の刺客は睨み合う二人の奥で既に打ち合いが始まっていた。

ニット帽をかぶったタンクトップ男の打撃が摩耶を襲う。大振りを一切せず、細かく素早いラッシュを何とか打ち捌いていく。

摩耶「ッ(コイツ……やり辛なぁ!)」

そう思った一瞬、防御を掻い潜りニット帽の右拳が摩耶の腹部に吸い込まれていく。直撃、と思われた刹那、摩耶は上半身を倒れんばかりにエビぞった。足をあげてその拳を受けて反動で大きく後ろに跳躍し着地する。

【始末屋】アグノスティックフロント。本名:阿久富士夫(あくふじお)。

あらゆる汚れ仕事を内々に処理する、裏家業人。報酬さえ払えば、如何なる仕事もこなす。「兇悪狂人」「冷酷なる暴力装置」それが阿久富士夫である。

摩耶「ユビワはずるいよ。今怪我したくないし。」

阿久の両手にはメリケンサックがはめられている。それに加えて戦闘styleはストライカー、自分とは相性が悪い。実力は申し分なく本物。打ち合いで倒すのは骨が折れそうな相手。
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