ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー闘技号:屋上公園エリアー

午前11時18分目的地到着まで後18時間。

船旅による運動不足を解消するために作られたこのエリア、公園というにはプールやランニングコース、サイクリングコースなど船とは思えないほどの充実した空間である。

そこに設置されているベンチに二人の男が腰かけホットドック片手に会話をしていた。

紅「聞いたか?義伊國書店の代表闘技者が、どこぞの馬の骨に負けたって話だ。」

悠「……」

大ぶりのホットドックに齧りついた。ひと口で半分ほど消えている。

紅「義伊國書店の闘技者の氷川ってやつはJKD(ジークンドー)の達人だったらしい。そこらの雑魚に後れを取るはずがない。その氷川を負かして代表闘技者の座を奪った「カネダ」って野郎、いったい何者だろうな。」

悠「んー……。」

もう半分残ったホットドックを口に放り込んで咀嚼する。少し離れたところでは露店が並んでいるエリアで城が見えた。

城「ホットドックひとつお願いします。え、タダなんですか?」

このエリア以外、船内でも飲食関係は全て無料でふるまわれている。

紅「そんなことより問題なのは俺たちの事だよな。船内での戦闘は闘技者以外なら一切おとがめなしって裏ルール。そりゃあつまり俺たちもいつ狙われるかわかんねぇってことだ。代表闘技者はオイシイ思いができるって噂だからな。どうすねよ、悠?」

悠「……関係ねぇよ。」

紅「関係ねぇって……お前なぁ……」

悠「やられる前にやっちゃえばいいんだよ。」

紅「……ほう!珍しく意見があったじゃねぇか!よっしゃあ!早速やってやるかぁ!怪しい奴は片っ端からボコボコだぜ!!」

勢いよくベンチから立ち上がる紅の背後から異の声が入った。

凛「いや~?それは無理じゃないっすかね~?」

チュウゥゥッと音を立てて何かドリンクを啜る小柄な女性、秘書(仮)の串田凛だ。

紅「串田ちゃん?無理ってどういうこと?」

凛「ん?そのまんまの意味っすよ?」

現在この船には闘技会会員417名中、絶命号に残された118名を除いた299名が乗船しています。

さらにその関係者、秘書やらボディガードやら愛人やらを合わせると、乗客はざっと3000名を超えています。

さらに船の関係者も合わせると、総員4000名強の人間が乗っているんです。そんな大勢の中から「刺客」を見つけるのは、まず不可能じゃないっすかね~?

紅「うっ……あ、なら全員ボコボコにしちまえば問題ないんじゃね?」

凛「そりゃ紅さんが通り魔ですよ。」

ボソッとアブナイなこの人…と凛はつけたした。

悠「結局のところ手段は……目的地到着まで部屋に閉じこもっているか、複数で行動を心がけることぐらい、か。」

紅「えー……なんだかなぁ。味気ねぇよー。刺客来ねぇかなー、刺客ー!」

城「どうかしたんですか?」

悠「ちょっと紅がバーサークしてるだけだ。」
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