ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー闘技号:船内廊下ー

氷川「考え事は終わったかい?」

涼はシャツの腕のボタンを外すと二の腕までめくり上げた。

大屋「おいおい氷川!」

氷川「大丈夫ッスよ大屋会長。お友達にケガはさせませんから。すぐに終わらせます。」

末吉「おお、コワイコワイ。」

……この人、ハッタリじゃない…本気だ。

氷川「……」

反対の袖もまくり上げながら涼は末吉に近づいていく。

末吉「はい!それじやあ早速始めましょうか。勝った方が代表ってことで!うらみっこなしでいきましょうねー。私、別に氷川さんが嫌いなわけじゃないですか……ラッ!」

パチィッと金田の顔に何かがぶつかった。

氷川「うぬぼれんな。俺とお前とじゃ勝負になんねぇよ。」

末吉「ッッ……!」

鼻から血がこぼれる。速い……それにこの人、サウスポー(左利き)!

涼は左手で首のネクタイを解きながら言った。

氷川「一分だ。お前が一分間、俺の攻撃をしのいだら代表の座はくれてやるよ。」

末吉「……お優しいことで。」

まるで隙が無い。さすがは代表闘技者。

氷川「おら、次は手加減しねぇぞ?しっかり避けろよ?」

両の拳を構えるとトンットンッとトラッピングを取りだした。

大丈夫、問題ない。左拳を重点的に警戒しつつ「分析」をするのが最良だな。……?……違う!!違うぞ!!氷川(カレ)は左利きなんかじゃない!!縦拳!!

涼の拳が細かく、しかし正確に金田の顔や腹部を連打する。

末吉「わっ!わっ!そ、そうか、氷川さん、アナタジークンドー使いですね?」

截拳道(ジークンドー)型にとらわれない戦術を重視した中国拳法をベースとする近代武道。利き手利き足を前に出す構えや独特なトラッピングを擁し、その実践想定タイムはわずか6秒。目つき、金的、関節蹴りなどあらゆる禁じ手を開放し、「超短期決戦」を極意とする。

氷川「(「重心」か。コイツ、俺の重心を見て気付きやがったな。技の特徴から截拳道にも気がつくとは……見る眼「は」あるじゃねぇか。)まぁ、せいぜいがんばれよ。辛くなったらいつでも降参していいからな。」


船内:モニター監視ルームでスキンヘッドの護衛者、ハサドを蹴り飛ばした淀江とツンツン頭の護衛者が椅子の背もたれに凭れながら戦いの様子を見ていた。

ツンツン頭「ほう、もう抜け道に気がついたやつがいるぜ。」

淀江「この色黒の方は、義伊國屋書店の代表闘技者だな。日吉津、色黒と細目どっちに賭ける?」

日吉津「色黒だな。動きに差がありすぎる。動きをみてる限りじゃ細めの方は武道の経験があるかすら怪しいもんだ…」

そのとき、ガチャンと扉が開く音がした。交代の時間にはまだ早い。淀江と日吉津が振り返ると一人の男が立っていた。

刹那「見つけた……見つけたぞ。お前が上げた血飛沫で「彼」が穢れた!!お前、死ねよ。」

異様な気配と圧倒的な殺意を迸りながら桐生刹那が近づいてくる。

日吉津「おい、淀江。こいつ、皇桜学園の闘技者だ。」

淀江「関係ない。身の程知らずには教えてやらんとな。「護衛者(オレたち)」の力量を」
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