ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー闘技号:中央大ホールー

初見が逃げた先では何かに惹かれあったように闘技者たちが集まっていた。そのなかで特に高低差のある二人が談笑している。

摩耶「モグモグ、いやー……なんかこうやって話すの久しぶりだね。金剛君」

金剛「ガブッ、そうだな。」

皿いっぱいに料理を乗せて口に放り込んでいく摩耶と配膳用のシルバープレートに乗った鳥の丸焼きをフライドチキン感覚で掴んで齧っている金剛。

摩耶「僕はちょくちょく金剛君ところにご飯食べに行ってたんだけどね。まったく顔見なかったけどどこいってたの?」

金剛「京都」

摩耶「ああ、いいね京都。今の季節は賑やかでしょう?」

金剛「いや、街に繰り出したことはなかったけから知らねぇな……。」

摩耶「まぁ、そうだろうね。それよりも金剛君は何回ぐらい闘技試合やった?」

金剛「2回だな。別にやらなくても良かったらしいが雰囲気を掴んどくためにって……お前は?」

摩耶「いっぱいやったね。」

金剛「え、なんで?」

摩耶「ほら、僕って無名でいわゆる大きな会社の闘技者じゃないから実績とかがないわけじゃん?それを稼ぐために結構な数こなしたんだよ。会員証を手に入れてからは挑戦者が雨後の筍みたいに連れたからね。多い日で一日に6、7回戦ったよ。おかげで色々と情報とか手に入ったんだよ。」

金剛「なるほどな、俺のところはそういうのは全部、柏がやってるからな。必要なこと以外、全然教えてくれねぇよ。」

摩耶「じゃあ、少し教えてあげようか。周りにちらほらと闘技者とおぼしきひとたちいるじゃん?初めてみる人たちが多いんだよね。恐らくだけど闘技試合で一戦もしてないひと達だよ。」

金剛「そうなのか?」

摩耶「うん。けど、有名なひと達も多いよ。ほら、あそこにいるのは見知った顔だし」

摩耶が視線を向けた先には壁にもたれかかってワインをたしなんでいる氷室薫がいた。摩耶たちと目が合うと微笑んで手を軽く振ってくる。

金剛「あの男が出てると聞いたときは驚いたもんだ」

摩耶「で、あっちにいるちびっ子(僕よりは大きいけど)は暗殺拳・因幡流の後継者、因幡良(いなばりょう)。殺しの腕もさることながら、奇行で有名なんだってさ。」

因幡と呼ばれる男は悠よりも長い髪で顔がほとんど見えずなぜか床を四つん這いで移動している。

金剛「確かに不気味だ」

摩耶「で、あっちが暗殺一家の魏一族。詳しいことは知らないけど、とにかくヤバい一族。」

小柄な老人の周りに数名の人間が陣取っているが明らかに常人とは違った迫力がある。そしてなにより目、黒目と白目が逆転したような黒い瞳を持っている。

金剛「すげーなー、まるで殺し屋オールスターじゃねぇか。けど、裏の連中だけじゃねぇぞ。表の強者も揃ってやがる。」

金剛が目を向けたのは椅子に腰かけて茶を啜っている爺さん。頭まで皺が寄るほどの老体ではあるがその実【武本流実戦拳法創始者】武本久安(たけもとひさやす)。82歳にして今だ現役。俗に言う達人という奴だ。

摩耶「あっちにいるのは僕らもよく知ってるね。」

金剛「寅……か。」

【闘神】右京山寅、悠との闘いもさることながら柏から金剛に伝えられたことがある。非公式ではあるが……この五カ月の間に4大団体のチャンピオンたちと倒したという話だ。つまるところ寅はもはや実質ヘヴィー級王者であるようなもの、それをたった五ヶ月で成し遂げた正真正銘の化け物。

摩耶「このトーナメント、甘くないね。」

金剛「だな。」

もっとも……負けてやる気(なんざ)なんてさらさらないけど。
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