ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー闘技号:中央大ホールー

昔子供だった頃、一本の外国映画を見た。平凡なストーリーラインに終始退屈していた覚えがある。

豪華客船を舞台にしたロマンス映画だった。タイトルも俳優も思い出せないけど、一点だけ、強烈に印象に残っているシーンがある。

船内で行われるパーティーシーン。その華やかさ、煌びやかさに私は子供ながら大きな感銘を受けた。

『いつか自分もあんなふうなパーティーを体験してみたい』そんな風に子供ながらに思っていた。あの頃の私に教えてあげたい。とりあえず夢は叶いますよ……って。

船の中とは思えないほどの広さと夜とは思えないほどに明るく談笑したり料理を楽しんでいる客人たち……。

城「……なんていうかもう異世界ですね。」

悠「おれはさっきの船の方が好きだな。」

城「あれ?皆さんはどこ行ったんですか?」

悠「ああ、久秀と凛はオヤジを探しに行った。紅は……知らん。とりあえずおれは飯でも食ってるか。お前も自由にしてていいけど迷子になるなよ。」

城「まっ、待ってください!一人にしないで!」

おれと城は近くのテーブルのオードブルを目指した。

紅はというと「目的の人間」とは違う人間に声をかけられていた。

梔「あら、紅ちゃん。久しいどすなぁ。」

紅「あ、どうもっす。梔の姐さんも来てたんすね。えーと?」

先に梔と話していた女性らに視線を向ける。片方は金髪でタバコ片手になかなかきつそうな面持ちの女性、そしてもうひとりは黒髪ショートの小柄な女性。

梔「ああ、せっかくやからご紹介をこちら奏流院紫苑(そうりゅういんしおん)さんと松田智子(まつだともこ)さん。」

紫苑「皇桜学院の理事長をしてるものよ。」

智子「秘書の智子です。」

紅「SH冷凍の社長兼闘技者のくれな……。」

自己紹介ををしようとしていると横から誰かが智子に声をかけてきた。

「すいませーん。ライターおとしちゃって……火を貸してもらえませんか?ってアレ~?前にどこかで会わなかったっけ?」

智子「えっ?ええ?」

「うん、そうだ間違いない。」

どこかだらしくなく高級なスーツを着た長身の男【小鳥遊コンツェル】代表闘技者の初見泉が露骨なナンパをし始めた。

紅「なんた、あのおっさん……あれ?姐さんかだ?」

初見「うーん、どこだったかなー?名前と電話番号を教えてくれたらすぐに思い出せそうなんだけど……」

紫苑「ほら、使えよ。」

紅の側から消えた紫苑が咥えたばこでものっごい煙を吐きながらジッポーに火をともして初見に向ける。

初見「(チッ!肝心な時に邪魔すんじゃねぇよ!)あ、ああ、すいませんね。じゃあ遠慮なくお借……」

顔面蒼白とはよく言ったもので泉の顔が真っ白になってタバコを落とした。

紫苑「久しぶりだな、泉……。」

初見「……あ…じゃあ先を急ぐのでこれで……」

梔「まぁまぁ、急がんでも時間はたっぷりありますえ?」

初見「ひゅっ!」

逃げ出そうとした進行方向の先に梔がゾッとするほどいい笑顔でたち塞いだ。さっきよりも顔色が一層わるくなっている。追い打ちをかけるように紫苑がネクタイを引っ掴んだ。

紫苑「相変わらず女癖が悪いみたいだな~?」

初見「いえ……決してそんなことは……」

紫苑「アレ潰しとくか?あ?」

梔「や…!ヤダなぁ…そんな恐ろしい事いわないでください…よっ!!」

一瞬の隙をついてネクタイを解いて脱兎の如く逃げ出した。ごった返す人にぶつからずに潜りこんで姿が見えなくる。

梔「逃げられてしまいましたなぁ。」

智子「あ、あの~理事長?梔さん、今の人とお知り合いなんですか?」

紫苑「あー……ひと言でいうとだな、元カレだ。」

「「ええっー!?」」

梔「うちは見合い相手どす。」

「「マジすか!!?」」

逃げ出した初見は柱の影に隠れてタバコを取りだして火をつけた。

初見「危っぶねー。アイツ(紫苑と梔)らがいるのすっかり忘れてたぜ。うかつにナンパできねぇな。」
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