ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー闘技号:甲板ー

紅「つまり勝ちゃいいんだよな?」

悠「だな」

城「(このひと達……事の大きさにまったく理解してないんじゃ?)」

本当に軽い調子で会話しながら甲板に続く階段を登っていくと先頭を歩いていた沢田慶三郎が何かを見つけた。

沢田「あら?闘技号の甲板に人影が……」

勝ち残り組が登り終え、見てみると確かに人がいた。数人どころではなく数十人の黒服、それの中央に現闘技会の王にして最高権力者の片原滅堂が陣取って杖をついたまま座っている。

片原は立派な髭に埋もれた口を開いた連動して年輪のように深く刻まれた皺も動く。

滅堂「諸君……まずは予選突破おめでとう。……いや、あるいは予選で散ったほうがめでたかったのかもしれんのぉ……ホッホ……。」

紅「……」

紅は思った。初めてみる。この爺さんが片原滅堂か。わけのわかんねぇプレッシャーを感じる…デコピンすれば死んじまいそうな爺さんの気とはとても思えねぇ……。

滅堂「本戦では君たち5人を含めた33人で争うことになる。これほど早く予選が終わるとは思っておらんかったのでの、本来は明朝ミーティングを行うはずだったんじゃが、詳細は予定を早めて午前2時より中央大ホールにて発表させてもらう。他の28名の闘技者とともにな。」

城「つ、ついに全出場者が一堂に会するんですね!」

悠「なんでお前が興奮してんだ……。」

滅堂「さて、歓迎セレモニーはこれにてお開きとしよう。まずは諸君らの部屋まで案内……おや?何か御用かな?ハサド君。」

【ペルシイ石油】所属闘技者であるハサドが前に出ていく。雇用主である社長の鈴木栄作も困惑の表情を浮かべた。

鈴木「は、ハサド……?」

ハサド「片原会長、一点お答えいただきたい。」

顔を覆っていたターバンのようなものを取って会長を端整な顔が見つめた。

沢田「まっ!(ヤダ!イイ男!!)」

滅堂「ふむ、もしや予選の事か?」

ハサド「左様。なぜ、我らが予選を課せられ、他28名は免除されたのか、納得のいく理由をお聞かせ願いたい。私を含めここにいる5名、予選では明らかに抜きんでた実力を発揮していた。実力以外に何を以て判断を下したのか……」

滅堂「自惚れるなハナタレが。」

ハサド「…………何?」

滅堂「選ばれたのは28名の闘技者ではない。闘技試合で優れた実績を残して居る上位28社じゃ。闘技試合の本質、知らぬわけではあるまい?企業と企業、商人と商人が、覇権を競う修羅の世界よ!商人を差し置いて「道具」が主張するなど笑止千万!!貴様ら闘技者は「駒」ということを自覚せい!!」

古木のような年寄とは思えぬほどの大声が甲板に響く。

ハサド「…………ならば教えてやろう。駒の強大さを。」

沢田「ちょっ!アンタ!」

声をかけた沢田を無視してハサドは歩みを進める。片原滅堂に向かって。

黒服たちも会長を包むように移動し始めた。黒服たちの中でも最強戦力のひとり鉄のマスクをつけた【牙に最も近い男】こと鷹山ミノルがいった。

鷹山「…私が排除します。」

滅堂「…いや」

前を見てみるとハサドの前には既にスキンヘッドの黒服がひとり立ちはだかっていた。

スキンヘッド黒服「わきまえろ、下郎。」

ハサド「退け、雑魚に用はない。」

一拍置いてハサドの高速の突きがスキンヘッドの顔を貫こうとした。しかし、打たれたのは……逆。黒服の拳が端麗な横顔を殴りつけている。

「「「!?」」」

ハサド「き……貴様!!」

髪を振り乱し口から血を吹く出しながら叫び再び仕掛けるハサドだったがスキンヘッドの回し蹴りがさく裂し、大きく宙を舞った。血飛沫をまき散らしながらバシャッと音を立てて船の外……つまりは、海に落ちた。

紅「うおっ!?血が!」

闘技者たちの上を通過したので血の雨が降り注ぐ。

悠「うわっ、髪についちまったよ…。」

パキンッ……。遥か高みで小鳥遊悠をウォッチングしていた者が持っていた望遠鏡が握り潰される。
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