ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー試合会場:佐治ノ門共同溝工事現場ー

コンクリートで固められた薄明りしか照らされていない広大な空間の中に場違いな手製の試合リングが作られており、そこを中心に人間がひしめいている。

すると、パッとそのリングの中央がライトで照らされると黒いズボンにボーダーのシャツを着た眼鏡の男がマイクで喋り始めた。

レフリー「え~……ご来場の皆様、今宵は値か0メートルまでご足労いただきまして誠にありがとうございます。前置きはなしにして早速ご紹介しましょう……今夜、闘技会会員資格を求める挑戦者はこの男!!!!松永花火製造&小鳥遊堂所属闘技者・小鳥遊悠ゥゥゥッ!」

ワンワンっと声が反響する中、ライトで照らされるおれ。その背後には久秀がパタパタと鉄扇で自分を扇いている。

「おい…あいつ小鳥遊っていったか?」
「でも、花火製造&小鳥遊堂所属ってなんだ?」
「ルーキーか?」
「いや、たしか兜馬社長の息子らしいぞ…」
「期待のルーキーだな」

ひとを値踏みするような視線を向けてヒソヒソ声が耳に届いてくる。

悠「……はぁ。」

今日もいつも通り鍛錬だと思っていたが急に夜見がおれの首をキュッとして意識が飛んだと思って、次に目を覚ますと小鳥遊堂だった。久々に戻ってこれたと思ったら闘技会会員試合が今夜あるからすぐに準備しろと言われて家に帰る暇もなく、今ここに立っている。

レフリー「続きましては防衛側の入場!本日、会員権を守護する闘技者はコイツだぁー!我道館空手の喧嘩番長!牛民フードサービス所属闘技者…横田正康!」

レフリーの紹介で反対側にもライトが照らされる。坊主頭に空手の道着姿のいかついおっさんが構えを取っている。

横田正康
闘技試合戦績15勝4敗
非公式試合戦績27勝0敗

三喜夫「ふん…何が期待のルーキーだ。横田君、あんなガキはちゃっちゃと片付けちゃいなさい♪」

牛民フードサービス社長鍋三喜夫が余裕を向けて笑いかける。

横田「…ウス!」

三喜夫「(フフ…闘技会会員証を餌にするとカモが釣れる♪小銭稼ぎ最高~!なーにが、絶命トーナメントだ。誰がそんな危ない橋渡るかよ。俺はマイペースに稼がせてもらうぜ!今日も、これからもな!)」

二人の闘技者がリングで対立する。レフリーが中央で声を張った。

レフリー「準備いいか!?」

悠「ああ」

横田「ウスッ」

レフリー「それでは両者……構えてぇぇっ!!始めっっ!!!」

そう言い終えた瞬間、横田の顔が歪んでいく。拳がめり込み、そのまま半円を描きリングに叩きこまれた。

久秀「ふあぁ~っ…。」

三喜夫「……え?」

久秀はつまらなそうにあくびをして、三喜夫は変な笑顔のまま顔に汗が拭きだしている。

レフリー「…え??……お?」

横田「ごっ……おっ……。」

頬骨を完全に砕かれ拳の形に横面が陥没した横田は変なうめき声をあげてぴくぴくと瀕死の状態だ。

レフリー「し……勝負あり!!!勝者!!小鳥遊悠ーー!!」

「「「「ウオォォォォォッ!」」」」

三喜夫「なななななななななんじゃこりゃあああああああああ!!横田がまるで相手にならないいいいい!!!こ、小銭稼ぎで……大損しちゃっ…………たぁ。」

と、泡を吹いた倒れた三喜夫と顔のつぶれた横田が担架で運ばれていった。

城「す、すごい!圧勝じゃないですか!」

夜見「当然だ。」

久秀「あんな雑魚相手に手間取られちゃ困るわ。でも、動きがいいのに身体はおかしいままなのね。本戦までにどうにかなるんでしょうね?」

夜見「それは小僧次第だな。」

悠「よう、勝ち取ったぜ。」

城「お疲れ様です!」

夜見「じゃあ、帰るか。」

悠「やめろ!落そうとすんな!今日は絶対に家に帰るからなっ!!」

レフリー「松永様、おめでとうございます。こちらが闘技会会員証です。確かにお渡ししましたよ。」

レフリーから「闘」と書かれた大きな将棋の駒のような板を渡された。

久秀「ふうん、これが会員証なのね。」

城「なんか……質素ですね。」

久秀「重要なのはその価値よ。会員になれるのは一握りの人間のみ。ちなみに今回の試合の参加費は5億程度だったわ。相手の社長がバカで大助かりよ。」

城「5億程度って!?」

悠「とりあえず、飯だ。飯食いに行こう!!そのあとはうちに帰る!今夜は家の布団で寝るからな!!」
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