ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー某所:廃ビルー

理乃「あら?あちらの闘技者も強そうね。心配だわ。無理はしないでね雲山?」

身体のラインが良く目立つドレスに身を包んだ夜の女王は道着姿の男に微笑みを向けた。

雲山「心配は無用です。すぐに終わらせます。」

何度か拳を握りながら雲山はそう答えた。冷静に対戦相手である洪に目を向ける。

洪「……」

洪は上半身は裸で鍛えこまれた筋肉が威風堂々と目立ち下半身はカンフーパンツ姿だ。首を軽く揺らすと連動して長く編んだ辮髪も揺れている。

可憐な理乃や静かな闘技者たちとは違いもう奇人といわれる女は真っ黒の髪を振り乱し目をカッと開いて叫んだ。

とまり「……ハッ。覚悟しろよ糞ビッチ。トーナメント前にテメーの闘技者をオシャカにしてやるよ!!小虎!格の違いを見せてやりな。」

リングなどは無く闘技者二人が部屋の中央に対面するとレフリーが真ん中に立ち、観客たちは一定の距離を置いて円形に広がった。

鬼を継ぎし鬼と復讐に燃える男。

今ここにふたりの戦いの幕は切って落とされようとしていた。

レフリー「構えて……始めぇっ!!」

開始の合図と同時に二人の男は前に出た。間合いを詰め互いに一番のポジションに陣取ると拳の打ち合いとなった。拳が打ちあい弾きあいドドドドッと鈍い音が建物内に響き渡る。

洪「……やるなあ、お前。スピードで俺に引けを取らないとはな。大したもんだぜ。」

余裕を見せていた小虎だったが雲山は更に一歩踏み込んで拳を振るった。

雲山「何だ?スピードが自慢か?」

空中に何かが散った。赤いしずくと何かの破片……。洪の右手の爪がすべて砕けている。

とまり「!?(一瞬で爪を五本狙った!?あの野郎、とんでもなく速え!)」

雲山「気の毒だが上には上がいる。自慢は今日までにしておいた方がいい。」

洪「……ッッ、構わんよ。一番の売りは速さ(ソコ)じゃない。」

砕けた爪が残った指に噛みつくと皮膚ごと爪を噛み千切った。

「うおっ!!?」「なんてやつだ!」

とまり「くくっ」

理乃「あら、痛そう。」

雲山「(なるほど……そっちがセールスポイントですか。)

洪は血まみれの手を握る。ボタボタと血がたれ流れていき、次の瞬間もいきなり側の柱を突いた。

「爪が折れた方の指で!」「コンクリを砕いた!?」

洪「俺の流派は極意拳。その奥義は、脳内麻薬物質のコントロール。まあ早い話が、痛覚を完全にシャットアウトできるってことだ。」

とまり「ハッハー!!!ビビったかクソ野郎!「痛み」がなければ「恐れ」がねえッ!!「恐れ」がなければ「躊躇」がねえ!!「その状態」になった小虎は「痛み」では止められねぇぞ!!」

洪「ハイィィッー!」

叫びをあげながら蹴りを繰り出す。雲山は腕でガードするがビリビリと骨に響く。がむしゃらな力任せの蹴りゆえの威力。ガクッンと体制が崩れると、間髪おかずに鋭い突きを繰り出してきた。

雲山「痛み?関係ありませんね。」

ボキャッ、ボキャッと何かが砕けた音が2つ。

洪「……?!」

とまり「……あ?」

雲山「動けなくすればいい話だ。」

両ひざの骨を蹴り砕かれた洪小虎は文字通りその場に崩れ落ちたのだ。
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