ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー池袋:摩天楼ー

詠子「無理って……軽く言い切りますね。」

凍夜「ヨミちゃんも知ってると思うけど闘技会会員になるには「富と社会的地位」に加え「闘技会の承認」が必要。……ただし」

詠子「ただし?」

凍夜「それはあくまで「正規の手順」を踏んだ場合の話だね。」

詠子「…あるのですか抜け道が?」

凍夜「ふふっ、「商い」に抜け道があるのは当然じゃない。」

闘技会会員になるということ、それ即ち、一流商人である証明。

それ故、会員権を喉から手が出るほど欲しい者は掃いて捨てるほどいる。

そんな闘技会の権威を利用して、「会員権」をかけた非公式な試合をする会員も少なからず存在する。「挑戦料」として支払われる金銭を目的にね……。

詠子「非公式の試合……っということは、摩耶君らが言っていた挑戦料の一億というのは?」

凍夜「恐らくだけど正会員から聞いた話じゃなくて非公式な試合の方で噂が広がってるんだろうね。そもそも「闘技会会員」であるなら「50億」の参加費いいわけだから。」

詠子「その非公式な試合は問題ないのですか?」

凍夜「そういうことをするのは小銭稼ぎをするのは雑魚だからね。彼らにはとるに足らない相手だと思うよ。それに、非公式とはいえ、審判は闘技会から派遣され、勝敗の結果は絶対とされる、いわば「闘技会会員チャレンジマッチ」といったところかな。」

詠子「なるほど……しかし、詳しいですよね。色々と」

凍夜「こんな仕事をしてると耳ざとくなってくるもんさ……ついでによからぬ噂も耳に履いてくるしね。」

詠子「なんですか?」

凍夜「ヨミちゃんはさぁ、アンダーマウント社ってしってる?」

詠子「それは知ってますよ。」

平成18年設立。検索エンジン、SNSといったインターネット関連事業を主軸とする。SNSのアクティブユーザーは全世界で16億人超。また、自然科学とりわけ神経科学の研究に注力している。革新的なサービスを矢継ぎ早に発展させ、起業からわずか10年で急成長を遂げたIT企業。

凍夜「さすがだね。あの会社も闘技会に加入しているんだけどさ、5年しか経っていないのに、すでに企業序列上位に食い込む実力派企業でもあるんだよ。」

詠子「確か社長である太田正彦の手腕と言われてますね。で、アンダーマウントがどうかしたんですか?」

凍夜「噂なんだけどね。そこがヤバいのを雇ったみたいなんだよね。」

詠子「ヤバい?」

凍夜「うん、ヤバい一族。できれば違っててほしいんだけどなぁ……。もしくは、俺とは当たらないことを切に願いたいね。」

自分のデスクに戻った凍夜は闘技会会員証を指でなぞった。


~~


日本某所にある城のようや屋敷の一室で白髪の老人がゆっくりと口を開いた。

老人「全員揃ったか」

「「「……」」」

老人の前には金髪の大柄の青年、パーマ質なロンゲの青年、中肉中背で金髪の青年、巨体で坊主頭に髭の中年か鎮座している。

老人「集まってもらったのは他でもない、例のトーナメントの件じゃ。我が一族はアンダーマウント社につくことにした。……異論ないな?」

パーマ質の青年「爺様…義武不動産からの出場要請はどうする?」

老人「ふふ…一族同士討ちをさせるわけにはいかんでな…。払いが良い方を選んだまでよ。怜や…すまんが義武社長に断りの連絡をしておいておくれ……くれぐれも丁重にな。」

金髪の大柄「わかった。」

老人「さて…ここからが本題じゃ…トーナメントには誰を派遣しようかの…?我が「魏」一族からは…」

ニィッと笑う老人の眼前には四人の男たち……テレビよりさらに後ろには男、女、子供から年寄、性別や肌の色、年齢に至るまでバラバラの人間たちが広いはずの部屋に所狭しと集まって視線を老人に向けている。その瞳は皆「黒」、比喩ではない、この魏一族は黒目と白目が逆転したような瞳を持っているのだ。古来より暗殺を生業としてきた殺人一族であり。金次第でどんな依頼も受ける傭兵集団としても知られている恐るべき一族……。

そのなかで唯一、爺様側からも代表格の4人からも集団側からも外れた魏のひとりが柱に凭れながら爺様と似た笑みを浮かべた。
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