ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー池袋:桜花フラワーショップ前ー

某日、池袋界隈の一角で店を構える花屋。こんな場所でも花が売れるのかという疑問を投げかけられることもあるが、むしろこんな場所であるから花が売れるのだ。

生き馬の目を抜くような夜の店が乱立する東京では祝い事や贈り物、店を飾るものとして花は欠かせないのだ。

そして、この店の一人娘である桜花鈴猫は目の前で起こったことに脳がフリーズした。眼前……否、眼下で少年が土下座をしている。お世辞にも綺麗とは言えない池袋の地べたに頭をこすりつけている。

摩耶「お願いします。力を貸してください。」

土下座をさせられている、という場面は何度か見たことがある。しかし、自分がしかも知り合いに土下座をされたことなどは一度もない。

ようやく脳がとんでもないことをされていると理解して鈴猫は身をかがめてやめさせようとする。

鈴猫「ちょっ、ま、摩耶くん?!なにしてるの、とりあえず頭をあげて!!」

摩耶「お願いします。」

子供ぐらいの体躯しかない摩耶だが、鈴猫が起こそうとしても頑なに動こうとしない。

鈴猫「いや、お願いしますって……その、「闘技会」だっけ?出ろといわれても……」

摩耶「違うよ。出るのは僕。だけど、出るための手伝いというか、出るための資格が欲しいから、それを鈴猫ちゃんにお願いしてるんだよ。」

土下座の体性のまま説明をする、そのせいで鈴猫の頭には話が入ってこない。

「ちょっと何騒いでるの?」

店の奥から鈴猫の母が出てくると何事かといぶかしむ。

鈴猫「お母さん、なんでもないの!」

鈴猫母「いや、何でもないことはないでしょうに。よく分からないけど、その子は何か必死に頼んでるんだろ?とりあえず、奥に入ってもらいなさいよ。」

鈴猫「えっ、そ、そうだね。摩耶君、奥でお話しよう!」

摩耶「わかった。」

ようやく頭をあげた摩耶を部屋の方へと案内し、改めてどういうことかの説明を聞いた。

鈴猫母「……つまり、その企業同士の喧嘩大会に出たいってことなのね?」

摩耶「はい、そういうことです。」

鈴猫「喧嘩大会って……。」

鈴猫母「それで出るためには企業っていうか、会社としてエントリーが必要だと」

摩耶「はい。」

鈴猫母「なるほどね、話は分かったわ。けれど、その参加費とやらはどうするつもりなの?」

鈴猫「50億…」

摩耶「正確には参加費50億、挑戦料が1億だから51億だね。もちろん、資金は多いに越したことはないだろうけど」

鈴猫「いやいや、51億って……。」

鈴猫母「それだけのお金を用意する当てはあるの?」

摩耶「あります。雇い主という形だけでいいんです。必要ななどは全部僕が用意します。」

鈴猫母「……よし、わかった。鈴猫、力を貸してやんな」

鈴猫「お母さん?!本気なの?」

鈴猫母「この子は本気で頼んでるんだし、本気には本気で答えてあげるべきでしょう。」

摩耶「ありがとうございます!!」

鈴猫母「こっちでして欲しいことは鈴猫に頼むといいわ。しっかりと協力してあげなさい。」

鈴猫「えええっ?!」

摩耶「よろしくお願いします、社長!」

鈴猫「社長じゃないよ!!」

鈴猫母「雇い主ってことだから間違ってはないでしょ。」

摩耶「ということで社長、さっそくご同行をお願いしたい場所があるんです。よろしくお願いします。」

鈴猫「えぇ…。」
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