ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ーヘリ内:上空ー

突然、緊急の案件だと金剛は柏に呼び出された。それだけではない、何事かと顔を合わせるや否や、今からある場所に飛ぶ、準備をしろと言われたのが1時間前のことだった。

準備といっても何をどう準備すればいいと聞き返すと、少し考えて「長期の旅行?」と何ともアバウトな返答に頭をひねった。ただ、今からどこかに拉致られ更に長い間は戻ってこれないことを理解したので適当に服などをかき集めて慌てて準備をして出てきた。

その後、いきなりヘリポートからの出発、詳しい話を聞いた。【闘技会トーナメント】というものの事【小鳥遊家(弥一)の因縁】、【悠が一蹴されて浚われた】、どれもこれも香ばしい話だ。

金剛「なるほど、確かにその【牙】という男にも【闘技会】ってのにもかなり興味がある。」

柏「だろう?だからお前にも出てもらう」

金剛「出てもらうって、いや、出られるんならもちろん出るが……。」

柏「もちろん、お前にもメリットはある。ある会社所属の闘士として出てもらうが、一部の利益はお前の店にちゃんと還元するし、必要なら株として譲歩させてもらう。」

金剛「……それはいいんだが、いや、そういうのは俺にいわれても困るというか。」

柏「安心しろお前の親とちゃんと話はつけてある。っか、向こうは好きにしてくれていいと言ったがそういうわけにはいかんからな。場合によったら死ぬ可能性もあるんだ。」

軽く死ぬかもしれないといわれたが余り気にせず金剛は話を進める。

金剛「それで、今どこに向かっているんだ?」

柏「お前の鍛錬してくれてかつ、雇用主の元だ。」

金剛「雇用主って……アンタじゃないのか?」

柏「形式上だ。説明するのは面倒だから省くが……もちろん、事実上は俺が雇用主と思っていて問題ない。」

金剛「はぁ…。じゃあ、その件はいいとして、いつも通りアンタが鍛えてくれるんじゃないのか?」

柏「そうしてやりたいのは山々だが兜馬さんから人探しを頼まれてるのと、色々と動かなきゃいけないことも多い……。だから、トーナメントまではしっかりと面倒見てもらえ。んっ、見えてきたぞ。」

話しているうちに目的地へと着いたのか、ヘリは降下を始めた。降りると、すぐに車に乗ってどこかへ走りだした。ただ、今どこに居るのかはわからなかった。移動中に聞いてみたがすぐにわかる、とだけ言われた。さらに一時間ぐらい車にゆられてついた先は山の中に建てられた寺のようなところだった。

柏はついて来いというので後を追うとズカズカと壮大な建物の裏へと回ると、その先に『危険立ち入り禁止』、『関係者以外立ち入り禁止』とかかれた看板がいくつもたっている奥へと進んでいくと、長い石造りの階段が見えてきた。年季は入っているがよく整備されていた。ただ、金剛の身長からすると少々周りの木々の枝が顔に当たったりするのを耐えながら登りきると、門が見えてきた。その先に立っているのは着物姿のひとりの女性。

小鳥遊柏の姉であり、小鳥遊悠の従姉、小鳥遊梔だ。

梔「まぁまぁ、遠道をご苦労さんどす」

金剛「あ、いえ、どうも……。」

柏「姉貴、話しておいた通りコイツの事を頼む。」

金剛「えっ?」

頼むということは、雇用主かつ面倒を見てくれる相手は梔だということだ。

梔「うちの方はええどすけど、金剛さんはホンマに納得されとるんどすか?」

柏「問題ないよな?」

金剛「え、ああ、もちろん問題ない。よろしくお願いします。」

一瞬、面食らいはしたが梔という女性は柏自身が自分より強いと公言しているので文句はなかった。

梔「本人が納得してますんなら……うちも全然大丈夫どすえ。金剛さん、こちらこそよろしうに。」

にこっと微笑んで手を伸ばしてこられたのでそれに応じた。女性らしい細くて綺麗な手だが、なにか異様な迫力を感じて慌てて手を外そうとした。しかし、外せない。

金剛「っ!?」

梔「うふふ、うん、ええ反応どすな。」

ハッと前を見るといつの間にか手は離れていた。

柏「じゃあ、姉貴。後のことは頼む。それと金剛」

指でちょっと来いと合図を送られた。

金剛「なんだ?」

柏「この際だ。俺からは習えないことを色々と教えてもらえ。(闘技会前に死ぬなよ。)」

最後にボソッととんでもないことを言われた。ちょっと待てと止めようとしたが柏は今登ってきた石段をすぐに降り始めた。

梔「さて、金剛さん、まずはお話ししましょか。それから方針をきめていきましょどす。奥へどうぞ。」

金剛「あ、はい……。」

その笑顔に恐怖を覚えつつ門をくぐったのだった……。
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