ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂(裏)ー

避けれない攻撃というのは存在する。それを喰らった時の状態はいつもこうだった。殴られた部分から痛みが発せられ、意識が一瞬、この世とどこか別の場所の狭間から戻ってきた…今。

「っ…」

右のほほが悲鳴をあげた。骨と肉が押し潰されて熱もった衝撃におれは顔を歪めた。殴られるまで気がつかない速いパンチ。
目に映るやつとの距離はキャッチボールでも始められそうなくらい開いている。
右京山は小刻みに一定のリズムで跳ねていた。リラックスしながら準備運動でもしているようにも見えたが次の瞬間にはおれの目の前に拳が打たれていた。
パチンと指を弾いたような音がなり、やつのパンチを打ち払う。
おれは反撃にショートアッパーを仕掛けるも拳は空を切り、右京山はまたもと居た場所に戻っていた。

「…ベタベタのインファイターじゃなかったのかよ。こんな超遠間のヒット&アウェイファイターなんかいないぞ」

「いつ俺がインファイターなんていった?ボクシングがスタイルだといっただけだぞ」

言い終わると同時、右京山は消えては間合いを詰めて打つ行為を四回。体感時間にしたら刹那にも思える一瞬に仕掛けてきた。何処をどの順番でどのように打たれたから解らなかったが、おれはすべての打撃を弾いた。

圧倒的な攻めて側の右京山も怪訝な表情になる。

「……お前、見えてるのか?」

「見えてたら避けてるっーの…」

本来ならいや、本能的にこの敵から逃げないといけない。頭ではすでに警鐘が鳴り響いていた。
広い場所ではいけない。やつの危険領域(攻撃圏内)は自分からは射程外だと、しかし細胞が裏切った。主の意思を凌駕する細胞の意思。小鳥遊悠の裡(うち)なるものが全面で闘う事を望んでいたのだ。

自我と細胞の離反。
知能と本能の争いにおかしくなりそうになる……このままどっちに引きずり込まれてもダメだ。裡なる獣を暴れさせるだけでなく、ただ逃げのびるだけでもない。暴れ狂いたい細胞に自我を合わせるこれがおれの目指すべきスタイルだ…。

睨み合う右京山とおれ。
冷静に分析しろ、ボクシングでの超遠間のヒット&アウェイは初見だが対処方は知っているはず、経験済みの事を…。

あの男、氷室薫の最瞬にして間合い無視、迎撃(カウンター)にも最高峰の妙名武術……抜拳術。
おれは構えていた両の拳を下げてポケットに終った。やつが弾丸ならおれは居合いだ。

一秒二秒三秒…と、互いを睨みあったまま動かない。七秒、八秒、九秒と永遠にも感じる空間に必ず訪れるその一瞬をおれは待った。
今やその今は今の直後に来っ……右京山の姿が消えるそれに対し、おれは踏み込んだ。腰を切り仕込まれた刃(拳)を抜刀(抜拳)した。
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