ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー小鳥遊コンツェルン本社ビル:社長室ー

ミッシェル「社長、当面の予定ですが何とか緊急性がある物以外は調整がつきました。」

兜馬「そうか……ご苦労だったな。」

ミッシェル「いえ……。しかし、あれから数日経ちますが大丈夫なのでしょうか。」

兜馬「柏君に任せておけば問題ないだろう。」

ミッシェル「はぁ…。」

そのとき社長室のドアがノックされた。兜馬がどうぞと声をかけると、丁寧に一礼して警備局長の近藤が入ってきた。

寿「社長、お客様をお連れしました。」

「よぉす、久しぶりだな。おやっさん。」

歳は兜馬より少し若いくらいだろうか、無精ひげを生やしたやや長髪にシャツとジーンズ姿のだらしない感じの男が軽い口調で挨拶してきた。

兜馬「ミッシェル君、紹介しよう……闘技会トーナメント小鳥遊グループ代表闘技者、初見泉(はつみせん)だ。」

ミッシェル「この男が……闘技者」

寿「私も驚いています。まさか、戻ってくるとは……。」

初見「いやいや、呼び戻したのはおやっさんだからな。」

寿「せめて、社長とおよびしないか!」

初見「おー、コワイコワイ」

だらしないのは見た目だけでなく態度も相当だった。ミッシェルが頬の端をひくつかせるなか、兜馬が口を開いた。

兜馬「初見泉、奴の闘技会総合戦績は39勝15敗」

ミッシェル「15敗?結構負けてませんか!?」

兜馬「それにはワケがある……はぁ。」

寿「初見という男、腕前は紛れもなく超一流なのですが……その…素行に問題がありましてな…負け試合の内訳は…」

兜馬と寿がため息をつく中、へらへらと初見がミッシェルの側に素早く近づいていった。

初見「寝坊が9回、バックレが4回、それとど忘れが2回。計15敗って訳。」

ミッシェル「はあ?!」

つまり、試合で負けたのではなく単純にどうしようもなくサボり癖があるってことなのだ。社会人というか人間としてダメすぎるのだが、逆に言えば勝負としての勝率は……100%という事である。

初見「ミッシェル……ちゃんていうのかな?俺の事を気にしてくれてるの?嬉しいねぇ」

更にもう一つの悪癖をミッシェルは身をもって味わった。いきなり抱きしめられたのである。

ミッシェル「ちょっ!!?なにしやがるっ!!」

いきなりのハグ(セクハラ)に素の方が出てしまう。しかしそれ以上に自分が得意とする間合いであったにもかかわらず反応できなかったことの方が驚きだった。

寿「そのぐらいにしとかないか!それにお前のせいで小鳥遊グループがどれだけ被害をかぶったと!」

初見「そんなことより、どうだ?この後、飯でも」

ミッシェル「いかない!早く離せ!!」

本気で突き飛ばそうとしたが、いざ力を入れようと手を伸ばした瞬間、初見も同じように手を伸ばしてきて変な両手タッチを突きあうような形で後ろに下がった。

兜馬「その辺にしておきたまえ。初見君、すでに柏君から話を聞いているだろう。闘技会絶命トーナメント小鳥遊グループ代表闘技者は……君だ。」

初見「いいぜ。探しだされて連れてこられたわけだからとりあえずOkしとくぜ。」

ミッシェル「コイツ…。」

近藤寿は社長の考えがまるで読めなくなっていた。仕事関係外であっても付き合いの長い寿は何だかんだで最終的には自分の息子である小鳥遊悠、そうでないとしても百歩譲って小鳥遊柏に任せると思っていたからだ。

まさか本気であの気分屋に「ご自身の運命」を預けるつもりなのかと……。
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