ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】
ー北国:重犯罪者専用施設ー
北国に存在するといわれるその刑務所は人里から離れ、深い木々に囲まれた場所にある。その昔は斬首場だったという噂もあり、この場所のことを知るものには晒首刑務所と呼ばれている。
その日は雪が降り、月明かりもない死すがな夜だった。一頭の野犬が野兎を追う息遣いだけが響く……。兎は命がけの闘争だったにもかかわらず急に足を止めた。すかさず野犬がその身体に牙を突き立て食らいついた……と同時に、野犬は身体を固め鋭い眼光でその建物を見やると仕留めた獲物も忘れて、脱兎の如くその場から逃げ去ったのだ。
とっくに消灯時間は過ぎているのだある場所では明かりがともっていた。本来は受刑者の運動の場として使われる体育館。
その中央で二人の男が面と向かって座らされている。手とだけでなく足にまで嬢がつけられた男たち。そのふたりから目をそらさぬように警官が四名が壁の隅で待機している。
その様子を上から眺めるのがふたりの男のうち、警察の制服に身を包んだ恰幅のいい男が凍えそうな空気の中、汗を拭きだしながらいった。
「しゃ……社長…ほ、本当にやらせるんですか?」
それに答えたのは十王通信との社長、高田清助と呼ばれる品のいいスーツ姿の男だ。
高田「ハハハ、所長さんが心配なさるのは無理もない。でもね……心配いりませんよ。「法務大臣殿」とは話がついていますから」
それは知っている、命令がなけりゃこんな真似するわけねぇだろ!という言葉を飲み込んでさらに訪ねた。
所長「い、いったい何のためにこんなことをなさるんですか……?地位も名誉も欲しいままのあなたがなぜこんな残虐なことを……!?まるで理由が分かりませんよ!」
高田「…………わかりませんか…それで結構!わかってしまったら所長さんアナタ……後戻りできませんぞ?」
初老に差し掛かり体格も自分の半分にも満たない男が向けた瞳には恐ろしい迫力があった。
所長「!?」
高田「……と、まぁ、冗談はさておき」
所長「(本気だった!絶対本気だった!!)」
所長「そろそろ始めてもらってもよろしいかな?滅多に見られるもんじゃありませんよ?日本犯罪史上、最悪の二人。「素手による大量殺人実行者」同士の、生死を賭けた戦いなんてね……。」
俺はなにも知らんぞ!指示に従っただけだ…責任なし!と心で叫びながら所長はホーンマイクで下に居る警官たちに支持を出した。
所長『枷を外せ……まずは344号から…慎重にな…。』
警官の二人が警戒しながらゆっくりと近づく、特殊な専用の鍵を準備しながら、しかし334号はそれを手で制した。
334号「必要ない。もう外した。」
指で枷をつまむとブチッと取った。鋼鉄製の枷を飴細工のように千切りとったのだ。
所長「なんて怪力!!!」
手枷を千切り終えると同じように足枷も千切り外して立ち上がった。
334号「「不自由を受け入れる事」ひれもまた罰。」
この男の本当のは永島銀司、顔に「人は裁かれなければならない」という刺青が掘られ【狂信鬼】と呼ばれ、カルト教団「救世界」の狂信的信者である。対立する宗教団体の幹部・信徒計56名を殺害。
警官「先輩!51号が!」
先輩警官「どうした!?」
見てみるともうひとりの男も立ち上がっていた。足元には手錠足錠がそのまま落ちている。
警官「あ、アイツいつのまに錠を……「一切破壊せずに」どうやってはずしたんだ!!」
51号「さあ…さっさと済ませよう…悪いが読書の途中なのでね……。」
こちらは【血染めの象牙】と呼ばれた、坂東洋平という男だ。元・帝都大学医学部。三年次、暴力団事務所を襲撃。組員17名を殺害、5人に重軽傷を負わす。後日、身柄の確保に赴いた警官2人を殺害、4人に重軽傷を負わせたあと、あっさりと投降。
エリート医大生の突然の凶行は当時の世論を大いに騒がせた。
所長「殺人鬼二人……向かい合わせちまった……。」
高田「所長、スピーカーを貸してください」
所長「は、はい」
高田『ザザッ……すでに聞き及んでいるかね?なに難しいことじゃない……目の前の相手を叩き潰せばいいんだ。生死は問わない!むろんタダでやれとは言わない。勝者には二つの特典を用意してある、ひとつ、束の間の自由、もうひとつ、人を壊す権利を与えてやる。権利が欲しくば闘いなさい。』
坂東「……参ったなぁ。「壊す権利」か……私は快楽殺人者ではないんだがね……ただ「研究」も未だ道半ばなことだし……挑戦してみるか……「権利獲得」に。」
ぼつぼつとそういいながら坂東は右腕だけを上げていく。ポキポキと骨が鳴る音から次第にミギギッと異音がし始める。
対して永島は無言、しかしある一つの考えに辿り着いていた。「つかの間の自由」そうかこれは「天命」。「邪教徒を根絶やしにせよ」との、天命!!
永島「人は裁かれなければならない。」
両足を開き、前傾姿勢になりつつ両の手を鋭角に曲げ異形の構え。
所長「は…!始まっちゃう!総員至急退避!!巻き添えを喰らうぞ!」
殺人鬼二名を残して下に居た警官たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
永島「お前も邪教徒だな…」
坂東「…………いや、ただの「クズ」さ…「お前」も「私」も」
高田『よし、始め。』
その一言と同時に動いたのは永島だった。異様な姿勢のまま猛スピードで飛び出していく。坂東は動かない右手をあげたまま、動かない。
グチャッ
高田「……良い意味で「計算外」だったな。まさか……これほどとは……」
所長「ヒイイッ……!ひッ!い……い…!「一撃」!!「一撃」で仕留めやがった!あ……アイツは、人間じゃねぇぇ!あ、悪魔!!!悪魔だーーーー!!」
腰を引かして叫ぶ所長。体育館のど真ん中では一人の男が立ってる。もう一人の人間だったものは血の池に沈み、その生を散らしている。
高田「…所長、あの男、しばらく「借り」ますぞ。」
所長「し…知りませんよ!?何が起こっても知りませんからね!!?」
高田「くくっ」
高田は笑う。文句なしだ「闘技会絶命トーナメント」わが社代表の闘技者は、この男だ!コヤツなら届く!「滅堂の牙」に!
北国に存在するといわれるその刑務所は人里から離れ、深い木々に囲まれた場所にある。その昔は斬首場だったという噂もあり、この場所のことを知るものには晒首刑務所と呼ばれている。
その日は雪が降り、月明かりもない死すがな夜だった。一頭の野犬が野兎を追う息遣いだけが響く……。兎は命がけの闘争だったにもかかわらず急に足を止めた。すかさず野犬がその身体に牙を突き立て食らいついた……と同時に、野犬は身体を固め鋭い眼光でその建物を見やると仕留めた獲物も忘れて、脱兎の如くその場から逃げ去ったのだ。
とっくに消灯時間は過ぎているのだある場所では明かりがともっていた。本来は受刑者の運動の場として使われる体育館。
その中央で二人の男が面と向かって座らされている。手とだけでなく足にまで嬢がつけられた男たち。そのふたりから目をそらさぬように警官が四名が壁の隅で待機している。
その様子を上から眺めるのがふたりの男のうち、警察の制服に身を包んだ恰幅のいい男が凍えそうな空気の中、汗を拭きだしながらいった。
「しゃ……社長…ほ、本当にやらせるんですか?」
それに答えたのは十王通信との社長、高田清助と呼ばれる品のいいスーツ姿の男だ。
高田「ハハハ、所長さんが心配なさるのは無理もない。でもね……心配いりませんよ。「法務大臣殿」とは話がついていますから」
それは知っている、命令がなけりゃこんな真似するわけねぇだろ!という言葉を飲み込んでさらに訪ねた。
所長「い、いったい何のためにこんなことをなさるんですか……?地位も名誉も欲しいままのあなたがなぜこんな残虐なことを……!?まるで理由が分かりませんよ!」
高田「…………わかりませんか…それで結構!わかってしまったら所長さんアナタ……後戻りできませんぞ?」
初老に差し掛かり体格も自分の半分にも満たない男が向けた瞳には恐ろしい迫力があった。
所長「!?」
高田「……と、まぁ、冗談はさておき」
所長「(本気だった!絶対本気だった!!)」
所長「そろそろ始めてもらってもよろしいかな?滅多に見られるもんじゃありませんよ?日本犯罪史上、最悪の二人。「素手による大量殺人実行者」同士の、生死を賭けた戦いなんてね……。」
俺はなにも知らんぞ!指示に従っただけだ…責任なし!と心で叫びながら所長はホーンマイクで下に居る警官たちに支持を出した。
所長『枷を外せ……まずは344号から…慎重にな…。』
警官の二人が警戒しながらゆっくりと近づく、特殊な専用の鍵を準備しながら、しかし334号はそれを手で制した。
334号「必要ない。もう外した。」
指で枷をつまむとブチッと取った。鋼鉄製の枷を飴細工のように千切りとったのだ。
所長「なんて怪力!!!」
手枷を千切り終えると同じように足枷も千切り外して立ち上がった。
334号「「不自由を受け入れる事」ひれもまた罰。」
この男の本当のは永島銀司、顔に「人は裁かれなければならない」という刺青が掘られ【狂信鬼】と呼ばれ、カルト教団「救世界」の狂信的信者である。対立する宗教団体の幹部・信徒計56名を殺害。
警官「先輩!51号が!」
先輩警官「どうした!?」
見てみるともうひとりの男も立ち上がっていた。足元には手錠足錠がそのまま落ちている。
警官「あ、アイツいつのまに錠を……「一切破壊せずに」どうやってはずしたんだ!!」
51号「さあ…さっさと済ませよう…悪いが読書の途中なのでね……。」
こちらは【血染めの象牙】と呼ばれた、坂東洋平という男だ。元・帝都大学医学部。三年次、暴力団事務所を襲撃。組員17名を殺害、5人に重軽傷を負わす。後日、身柄の確保に赴いた警官2人を殺害、4人に重軽傷を負わせたあと、あっさりと投降。
エリート医大生の突然の凶行は当時の世論を大いに騒がせた。
所長「殺人鬼二人……向かい合わせちまった……。」
高田「所長、スピーカーを貸してください」
所長「は、はい」
高田『ザザッ……すでに聞き及んでいるかね?なに難しいことじゃない……目の前の相手を叩き潰せばいいんだ。生死は問わない!むろんタダでやれとは言わない。勝者には二つの特典を用意してある、ひとつ、束の間の自由、もうひとつ、人を壊す権利を与えてやる。権利が欲しくば闘いなさい。』
坂東「……参ったなぁ。「壊す権利」か……私は快楽殺人者ではないんだがね……ただ「研究」も未だ道半ばなことだし……挑戦してみるか……「権利獲得」に。」
ぼつぼつとそういいながら坂東は右腕だけを上げていく。ポキポキと骨が鳴る音から次第にミギギッと異音がし始める。
対して永島は無言、しかしある一つの考えに辿り着いていた。「つかの間の自由」そうかこれは「天命」。「邪教徒を根絶やしにせよ」との、天命!!
永島「人は裁かれなければならない。」
両足を開き、前傾姿勢になりつつ両の手を鋭角に曲げ異形の構え。
所長「は…!始まっちゃう!総員至急退避!!巻き添えを喰らうぞ!」
殺人鬼二名を残して下に居た警官たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
永島「お前も邪教徒だな…」
坂東「…………いや、ただの「クズ」さ…「お前」も「私」も」
高田『よし、始め。』
その一言と同時に動いたのは永島だった。異様な姿勢のまま猛スピードで飛び出していく。坂東は動かない右手をあげたまま、動かない。
グチャッ
高田「……良い意味で「計算外」だったな。まさか……これほどとは……」
所長「ヒイイッ……!ひッ!い……い…!「一撃」!!「一撃」で仕留めやがった!あ……アイツは、人間じゃねぇぇ!あ、悪魔!!!悪魔だーーーー!!」
腰を引かして叫ぶ所長。体育館のど真ん中では一人の男が立ってる。もう一人の人間だったものは血の池に沈み、その生を散らしている。
高田「…所長、あの男、しばらく「借り」ますぞ。」
所長「し…知りませんよ!?何が起こっても知りませんからね!!?」
高田「くくっ」
高田は笑う。文句なしだ「闘技会絶命トーナメント」わが社代表の闘技者は、この男だ!コヤツなら届く!「滅堂の牙」に!