ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー大江戸学園:大江戸城ー

【争い】

【争い】を収める最善の手段とはなんだろうか?

一口に収めるといっても手段は無数にある……仲裁・交渉・説得……特に有効なのが、【暴力】。

相手を上回る【暴力】で敵対勢力を押さえつける…ごくごく簡単な理屈である。

溯ること300年前、時は正徳五年。
世は太平なれどその陰で、商人たちの血で血を洗う争いが昼夜を問わず繰り返されていた。

彼らが欲した物――御用達の地位。

御用達…それは御用商人の最上位。

紙幣製造を始め、あらゆる業種において幕府への物品調達を独占することができるなどその特権はまさに最上だった。つまりすべての商人が喉から手が出るほど欲した地位だったということだ。

如何なる手を使ってでも…脅迫…謀略…そして暗殺…ありとあらゆる手を使い商売敵を蹴落としていった。

争いの中でさらなる禍根が生まれ、憎しみの連鎖が築かれていった。巨大化した暴力の連鎖はすでに当事者たる商人たちですら制御不能になっていき…この世は修羅道に成り変わろうとしていた。

解決していない。【争い】は結局解決策ではなくなっていると思っただろう?ご明察。

たしかに……暴力は有効な安全装置たりえる。だが、それはあくまで「管理された暴力」だ。「無秩序な暴力」は何ももたらさない。ただの暴虐に荒れ狂うのみ……。

時代は必要としていた。矛を制御する鎖を。

鎖をもたらしたのは、商人たちではなかった。徳河幕府七代将軍、徳河家継当時5歳。

家継は禍根の中心であった商人たちを呼び出し、ある命を下した……。

「争いを収めたたくば……正々堂々雌雄を決するがよい!!」

実に子供らしい単純で率直な提案。だが、彼らの中にこの単純な結論に帰結したものは一人としていなかった。幼き将軍の慈眼に感服し、おのれの至らなさを恥じた。

暴力は秩序を得た。
商人たちは組合を結成した。利害が敵対する場合、組合を通して勝負の場を設ける……勝負の結果は絶対とし、また、その他一切の争いを厳格に禁じた。

勝負の方法はいたって単純(シンプル)。一対一のステゴロ勝負!

圧倒的原初の暴力――双方が雇い入れた腕自慢が商人たちの代わりに雌雄を決することになった。

【暴力】は【武】へと昇華された。
組合員が見届ける中で勝負が行われた一方がひれ伏すまで……。

そしてこれは昔話ではない。今もなお、商人の間で継承されている伝統ある勝負法なのだ。商人たちはこの勝負法を連盟と受け継いでいった。争いを止める手段として……闘技者の拳に、願いを託す。

【闘技会】として。



兜馬「……というのが、闘技会の始まり、そして今だ。」

小鳥遊兜馬が語り終えると吉音がおずおずと手を挙げていった。

吉音「あのー、徳河ってことは…」

兜馬「ああ、吉音君や詠美君、君たちのご先祖様だ。」

吉音「詠美ちゃんしってた?」

詠美「……噂というか、こういう事が歴史的にあったという話は聞いたことがあったけれど、いまだに続いていることは知らなかったわ。」

兜馬「それも仕方がない。君たちはまだ若い。もちろん徳河の人間である以上、いずれは知ることになっていただろうけどね…。」

吉音「なるほど、だけど何で大江戸学園で開催することにしたんだろう?」

久秀「簡単なことよ。どういう理由か闘技会の会長の座をかけた巨大なトーナメントに開祖である徳河家の人間も関わっているという題目があればさらに大きくなるでしょう?まぁ、片桐会長という存在だけでも相当なパワーワードなんだけど。ただ…」

吉音「ただ?」

悠「上手いことはぐらかしてるみたいだけど、重要な話が抜けてるぞ。」

吉音「悠!」

詠美「気が付いてたの?」

悠「話の腰を折るのも悪いと思ってな……。それよりも、今の話で企業同士が闘って利害のやり取りをしているのは分かったが、ジジイの話が出てきてなかったぞ。ジジイがなんかかかわってたんだろ?」

吉音の膝から身体を起こすと親父を見た。するとはぁと深いため息をついた。

兜馬「これに関しては……小鳥遊家の問題だから、口にしたくはなかったのだが隠し立てしても仕方がない。話しておこう……。戦後のことである、日本ががれきの山から這い上がっているさなか片桐滅堂はある男と組み、闘技会へと乗り込んだ。そこから数十年、数多の勝ちを拾い続けていき、ついには今の地位がかけられた試合へと乗り出した。もちろん、当時の闘技会の会長、それを欲する者たちが最強だと謳う闘士たちを用意した……しかして、大会当日、ある問題が起きた。」

悠「最強が集まった大会で問題って……まさか」

兜馬「小鳥遊弥一……私の父であり、お前の祖父だ。企業も何も持っていない弥一は出場権利などないにも関わらず単身で乗り込むと、そこに集まったた闘士を全員つぶしたのだ。」

悠「何してんだよ……。」

兜馬「当然バッシングなどはあったが文句があるならかかってこいと一蹴し、誰も何も言えなくなった。」

柏「そりゃそうだ。自分たちが用意した最強の【武】をたったひとりに全滅させられたんだからな。」

雲水「ちなみにその時の優勝候補のひとりでやられちまったが五体満足で生き残った数人のうちの一人が夜見だ。」

夜見「……」

兜馬「そして問題は闘技会会長の座をどうするかという話になった。勝者は弥一であるがさっきも言った通りそのころはまだ小鳥遊は会社らしい会社は持っていなかった。そしてなによりあの男を頭に置くなど【武】に昇華したものが【暴虐】に戻りかねない。だが、そんな疑心はすぐに吹き飛んだ。弥一は会長などに興味はない、自分が一番強いという結果だけがあればいいといった。そして全滅させた闘士たちの中で歯ごたえのあった者がいた会社を選んで会長の座に与えた。それが片桐滅堂だった。もちろん、NOとは言わなかった、というよりは言わせなかっただな。」

道玄「もちろんそれですべてが終わったわけではなかった。闘技会が開催されるたびにちょっかいを出しに行こうする弥一を止めるために結成されたのが儂ら十神将だ。」

兜馬「さらに恥をさらすようだが、私が起業するときに親父……ンンッ、弥一はこれで堂々と参加できると笑ったよ。もちろん、私も闘技会の噂は耳にしていたが、この親父を出すということは若輩者ながらに駄目だということは理解した。出ればこの男は勝つだろう、そして勝ってしまえば起業したばかりで右も左もわからない自分の肩に闘技会の全責任と権力を持つ会長の座につかなければならなくなる。そんなものを制御できるわけがないと、聞き入れられるとは思わなかったが弥一に話してみた。すると意外なことに納得してくれた。ただ、その日のうちに弥一はふらっと消えた。数日後に電話がかかってくると大日本銀行が私の会社を支援し、また必要があれば共同のグループとしての協力をするという話になった。」

悠「は?」

兜馬「いいたくはないが親父なりの気の利かせ方だったんだろうな。共同関係にあれば私の会社は闘技会に出なくても大きな買収などに飲まれることはなくなるし……。それ以降はいつもの小鳥遊弥一に戻り会社経営などに関することには一切かかわらなくなった。いつしか私の会社も大きくなり片桐会長と実際に顔を合わせることも多くなってきた。最初こそは弥一の存在で組しているという対応だったが徐々に変わっていった。そして、数十年の時が立ちあの親父が亡くなって、さらに時が流れ今となり……。」

悠「弥一っていう矛がなくなって、実際に参加しなきゃいかなくなった……ってことか。」

兜馬「はぁ……そういうことだ。」
34/100ページ
スキ