ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー大江戸学園:茶屋小鳥遊堂ー

駒狸「こんばんわ」

神姫「こんばんわ。ああ、先にいっておくけど別に怒ったりとかしていないのよ。むしろ感心してるわ。」

駒狸「そんな、私は……」

悠「いいや、誇っていいよ。おかげでおれもこうして生きてる。ホントに。」

神姫「ホントにね。」

駒狸「それでも……やっぱり無茶しすぎですよ。」

おれの側に腰を下ろした駒狸さんは包帯にまみれた足を優しくなでる。

悠「でも、生きてる。それに道玄に一泡も二泡も吹かせれた。なぁ?」

神姫「……ちょっといいかしら」

おれの言葉を無視して神姫は駒狸の手をとった。

駒狸「えっと…」

神姫「……どのぐらいマッサージを?」

狐狸「毎日最低二時間、時間が少しでもあれば一分、一秒でもながくするようにしていました。」

神姫「そう…。」

駒狸の手のひらはツルツルになっていた。それは手入れが行き届いているとかではない、何度も何度も肉を揉み摩擦され皺がなくなってしまったのだろう。

悠の肉体は鍛えられている。全身を支える約203個から列なる骨、その骨格を覆い伸縮により運動エネルギーを生み出す筋肉が……だが、それでも皮膚、眼球、内臓などは鍛えることができない。

それを保護するのが筋肉や骨がある。だが、鬼状態や翠龍の毒は肺や心臓に大きな負担がかかる。さらに最大に効果を発揮するためには血液の循環を滞らなくし、その流れの勢いに耐えられる血管が必要なのだ。

もちろん、じゃあそれをやろう、と意気込んだところで易々と変われるものではないし確立した方法もない……。

だが、あきらめず駒狸は考えた。まずは血の淀みを無くすためにできること、それは血液をサラサラにすることだ。駒狸のつくる栄養ドリンク、通称駒狸汁には魚の油に含まれるオメガ3脂肪酸、DHAやEPAを経口摂取できるように研究し、新陳代謝あげるためリンパのマッサージを勉強し、悠の頭の先から不死のつま先まで毎日毎日、こつこつとマッサージを続けたのだ。

ダイヤの原石を研磨するように、彫刻家が石を掘るように、時間をかけて……。

人間の身体は急激に変化はしないしどこがどう変わったという結果が見えない。日にどんなに急いでも焦ったも本当に一ミリの成果が出ない場合もある。否、むしろそちらの方が多い。そんな雲を掴む、闇の中を手探りで彷徨うといってもいいほど先の見えない行為。

献身的のひと言では済ませられはしない慈愛、あるいは狂信的な執念……。

どちらにしても、神姫は悠と道玄が戦っていたときよりも冷たいモノが背筋に走った。
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