ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー大江戸学園:海岸ー

だらりと力なく下がった左腕。それはつまり盾の崩壊、拳の裏、手首、前腕、肘の四か所が黄色を含んだ毒々しい深い黒紫に変色してしまっていた。四度、たった四度の攻撃で盾(左腕)は破壊されてしまったのだ。

壊れていようがなかろうが関係はないと道玄の猛攻は止まらない。悠は下がらずにあえて一歩前に踏み込むと同時に腰を落としてすぐに伸びあがる。迫る剛腕を下から肩でかちあげて直撃をいなした。

短く腰を切ってフッと小さく息を吐いてジャブを道玄の横っ腹に叩き込んだ。懐に潜りこんでいて威力は出ない……それを差し引いても堅い、まるで分厚いゴムの塊を叩いたように打撃が響かないのだ。それでもいい何度でもと今一度ジャブを打とうとしたが奴の右腕が振りあがる。

直感的にいくつかの可能性が脳裏をよぎったチョップ、叩き付け、肘、スレッジハンマー……肘、肘だ。肘鉄が落ちてくると予見して上半身を反らした。

右半身にかかる軽い衝撃。振り下ろされた腕は緩やかに軌道をかえて軽く悠の身体を突いたのだ。それは攻撃という敵意があるものではなく、その場から一歩どかす程度の弱い押しあて。

敵意がないとは厄介なことだ。ある意味の奇手。押しどけられた先には貫き手が眼前まで迫っている。あんな典型的なフェイントで追い込まれた。逃げ場は後ろにしかない。

首を思いっきり後方に振りながらのバックステップ。直撃は避けたものの指先が額の皮膚を削ぎ取った。そのまま倒れそうになるが足に力を込めて地面を踏みしめて耐える。

スパァァンッ!突如、破裂音が響いた。

「ぎっっ!?」

一泊遅れて悠の悲鳴が漏れる。太ももを叩き割る巨大な鉈……をイメージさせるローキック。のたうちそうになるのを歯をくい縛って耐えて右ストレートを放った。

しかし、道玄は上半身を振って打撃を躱し両手で悠の後頭部を掴み覆い斜めに引き込みながら膝を打ち上げた。

「……ッ!!」

腹部に突き刺さる膝、さらに畳みかける膝の連打。そこから逃げ出したくなるが万力のような力で抑えられているのでどこにも逃げられない。身体を縮こませて胸を右腕で庇い腹筋にあらん限りの力を込めて受け止める。

ガッ、ガッ、ガッ、ガッと破城槌のような膝蹴りの連打に内臓がつぶれて胃液が逆流しそうになるが、不意に蹴りが止んだ。だが、同時に頭上から圧がかかる。

捕まれていた頭をさらに下へと引き込まれてボディから頭部へと狙いを変えられたのだ。

好機!

向かってくる膝よりも先に頭を腹へと突っ込み、がむしゃらに右腕を打ち、道玄の顎を穿った。

「ぐっ……!」

狙った顎の真下からはややずれて右下あごから頬にかけて拳がめり込む。唇が裂けたのか端から出血する。

悠は道玄の上がったままの太ももに右腕を回して抱え込んで首で横っ腹を固定して左の肩押し上げる、道玄の巨体が地面から離れそのまま後ろへとたたき落ちる。

仕合開始から4分34秒。

小鳥遊悠、テイクダウンに成功。
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