ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂(裏)ー

迫り来る右ストレート。やつの打撃ラッシュを浴びるのは一度経験している。これを喰らえば手も足もだせないくらいの攻めがくる。だが、おれは退かず、されどガードで受けようともしなかった。

拳が目の前にくる寸前に身体を思いきり腰から前に折ってやつのストレートを避た。頭上を通りすぎる風切り音に怯んではいられない。
返し手にショートボディブロウをお見舞いした。
腹部を殴り付けられた右京山はカウンターであるのもあって、身体が逆くの字に曲がる。
おれは即、側面に身体を移動させてやつの後頭部をつかんで地面に叩きつけた。

ダメージは確実。ついでに昨日の借りもしっかりと返してやった。
だが、やつはすぐに起き上がっておれを睨みあげる。
「やろうっ…。それがテメェの本当のスタイルかよ」

春野流・無手返し(玄武)ちなみに各四季家によって返し手の種類が違う。
夏喜流なら朱雀、秋宵月流なら青龍、冬花流なら白虎と四季は四聖に位置するとの事らしいが、今のおれが使えるのは正面からのみに対応できる春だけだ。

おれは首を振った。

「いやぁ。おれは自分のスタイルをまだ確立してないっていうか…。あくまでボクシンクスタイルで返し手に…」

「ごちゃごちゃうるせぇよ。テメェのどこがボクシンクだ。」

右京山はまた蛇行するような歩方で間合いを押し潰してきた。だが、今度は大技のストレートではなく、正確かつ細やかなインファイトジャブを打ってくる。
速さもあって間合いも完全に潰されて今度は無手返しを使かう隙がない。

しっかりと顔の前で両手を構え本気で腹筋に力を込める。やつの攻撃はジャブのはずなのに打たれるたびに重みが中に染み込んでくる。

このままでは昨晩の二の舞だ。やつも自分の土俵に持ち込めたのが確信できたのかラッシュのテンポが速くなりジリジリと小さくではあるが確実におれは後ろに下がりはじめた。

衰えを知らないジャブの弾幕を放ち続け。ついにガードブレイク狙いのサイドボディフックを仕掛けてきた。拳は左脇腹に深く突き刺さる。だが、それはやつにしてもおれにしても狙い通りだった。
打ち込まれた瞬間ガードを解いて右拳を右京山のこめかみにぶつけた。

おれは左へやつは右へと吹き飛ぶ。自分のダメージは最小限、やつへのダメージは最大限。

頭を押さえながら右京山は吐くようにいった。

「ぐっ……くそっ…一日でこうも変わるのかよ。」

「こっちは昨晩のから今朝までずっと、ずーっと、お前の対策をイメージし続けたんだ。すこしくらいどうにかならなきゃ。本当に無能になっちゃうだろ。」

インファイターボクサーに対抗するおれの策は肉を切らせて骨を断つ(カウンター)作戦。
やつの動きについていくのはまず無理と判断した上での苦肉の策だが、予想以上に効果はあったようだ。
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