ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー大江戸学園:海岸ー

「こぉっ!」

道玄の腕を跳ね除け生まれた空間。小さく息を吐いてがら空きのボディに左拳を叩きこむ。

「むんっ!!」

が、打ち放った左拳があらぬ方向に弾かれる。拳をかちあげた物体は膝。ならばと伸びきった右拳を引き、顔面へのストレートをブッ放った。

ゴッ、ゴッ鈍い音が響く。悠の拳は道玄の拳にぶつかった。

弾け合う拳、だが身はひかない。次に悠が繰り出したのはミドルキック。それを弾いたのは道玄のミドルキック。

次は肘、対して掌底。

打つ!打つ!打つ!
打つ!打つ!打つ!打つ!
打つ!打つ!打つ!打つ!打つ!
打!打!打!打!打!打!打!打!打!打!打!打!打!打!
打!打!打!打!打!打!打!打!打!打!打!打!打!打!

ひと言でいうならば壮絶……壮絶な殴り合いである。しかし、どちらも有効打がない。拳には拳、蹴りには蹴り、肘を膝を、手刀を……一歩も引かずに調子近距離での打ち合い。


それを遠巻きに見ていた鬼たちが近づいていく。さっきまでは龍剄に巻き込まれる可能性があったが、現在は完全に龍剄を封殺されていてその心配はない。そもそも、例え流れ弾が飛んで来ようと問題のない集団だ。

邪魔にならなく、見やすい位置が決まると立ち止まって雲水がいった。

「がはははっ。寅ッ子、気付いているか?」

「舐めるなよおっさん。誰に口きいてやがる。」

不機嫌に吼える若きスイッチボクサーの寅。何度も悠と拳を交え、死地にまで追い込んだ自分だからこそ知っている。小鳥遊悠はオールラウンダー型拳闘者(ファイター)だ。

だが……九頭竜道玄も同じオールラウンダー型ファイターだと気がつけなかった。



それは悠も同じだった。それも仕方がないことである。道玄は龍剄の使い手であって個人鍛錬も龍剄をメインにおき、拳闘の鍛錬は他の十神将が各々の得意の戦術をメインに当てていた。

そして体格、十神将の中で道玄と一番近いものは雲水に当たる。他に比較するなら金剛か雲山。どの面から見ても所謂パワー型の拳闘者……と誰しもが思う。

だが、いざ中身を見てみたら何のことはない。打、蹴、組、柔を使う生粋のオールラウンダーである。そして皮肉にも……同じオールラウンダー型同士の至近距離の打ち合いでは「スピードタイプ」よりの道玄がわずかに上回りだしたのだ。

悠の10の攻め手に対して道玄の11の返し手。龍剄気功という強力な技術を封じた。それはまさに鬼札、奥の手、妙技、称賛に値する技であった。だが、だがッ……それでもなお、九頭竜道玄を相手取って同格には持っていけない強敵なのである。
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