ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー大江戸学園:海岸ー

牢を破り、返し刃として放った一撃に道玄はどうするか…。おれはそれを見逃さない。

さらに打ち返してくるか、それと風壁で受けるか……。

「……」

「なっ!」

意外、避けたのだ。確かに蒼惨爪は高威力、広範囲だが所詮はただかき集めて返しただけのもの。道玄や神姫が繰り出す蒼龍爪に比べて応用や柔軟性にかけるのだ。

だからこそ案外、避けるのはたやすい。

砂塵の中に道玄が身を隠したが……今のおれには十分に見える、追えるのだ!

地を蹴り、巻き上げた砂煙を払って道玄の懐に潜りこんだ。完全に捉えた間合い、ようやく……ようやく届いたのだ。

「うおぉぉらああぁァっ!!」

握りこむ。怒り、勇気、熱、あらゆるものを握り込む。鋼鉄のように固めた拳で道玄を撃ち貫いた。


貫いた、貫い……た?



手応えがない。それどころか現に今もおれの拳は道玄に突き刺さったままなのだ。比喩ではない道玄の横顔に拳がめり込んでいるのだ。

「これは……幻?」

「龍剄気功:龍眼だ。」

後に分かったことだが龍眼の正体は風のレンズ。空気の壁を歪ませ、風のレンズを作り自分の姿を砂煙に投影させた。

「(声の位置)後ろ!」

絶句……。

「なるほど、その切り札は正直に驚いた。素晴らしい鬼と龍の完全融合……素晴らしい技術(わざ)だ。だからこそ儂も技術(わざ)で応戦する。」

奴はその場で三度地面を踏みしめた。肉眼で見えるほどの雷が走り、キィーーーンッと鉄の板でも引っ掻いたような高音とともに龍巻が立ち昇る。

弾針剄に海辺という地電エネルギーの分散しやすく不利な立地で有るにもかかわらず赤龍を送り込み、蒼龍爪を絡めて制御し、龍巻(トルネード)を生み、その龍頭をこちらへ向け解き放った。

規模が違う……。今までは最悪、身体で受け止められていた。だが、これは無理。建物すらもも飲み込みミンチにしかねない絶対の災害規模の龍剄。

砂利、波しぶき、そして大気すらを巻きこんで龍はさらに大きく成長していく。向かい来る絶望、防げぬ災厄。

これが九頭竜道玄という熟練(ホンモノ)の猛者(つよさ)か…。

おれは巨大に凶悪に成長したトルネードに飲み込まれた。

けど……おっさんは、ひとつ勘違いしている。おれは、俺は一度も「碧鬼状態」が切り札なんていっちゃいない。

「見せてやるよ!!本当の俺の切り札をなぁっ!!」

吹き荒れるトルネードが悠を呑み込んだ直後、ボッと鈍く巨大な爆発音が大江戸学園中に響き渡った。海岸付近にいた人間は衝撃に備え身を縮め固めたが衝撃はおろか破片のひとつ、水しぶき一滴落ちてこない。

何が起こったのかと身構えていた者たちは視線を一点へと向けた。

今の今まで吹き荒れていたトルネードは影も形もなくなり、悠と道玄の二人も無事な様子で対峙している。


「……?」

龍が不可思議に首を振る。自分が撃ちだした龍剄が消えていること、自分に何かしらのダメージもないこと、そして何より……今だ平然としている対峙者のこと。そして奴は笑った。

「痛って……へ、へへっ。どーよ、おっさん。俺の本当の切り札はよっ。」
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