ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー大江戸学園:海岸ー

「何をいっている小僧?」

乱れた髪、打撲、火傷、切り傷、力なく下がった双腕、血濡れた肉体……誰がどう見ても満身創痍。

「強敵だから、それを打ち倒す……できたら超ヒーローじゃん。強敵大好き♪」

道玄は大きく腕を振り上げいった。

「どうやら、低体温で妄言が漏れだしたか……いいただろう今、楽にしてやる。」

大きく鋭利な空気の刃が振り放たれる。

それと同時に牢に囚われていた悠が動いた。いや、動くというよりはほとんど前倒れに近い、それでも蒼龍爪が引き裂きにかかる……が、当たらない!!

「ハハッ、全然避けられる……ぜぇっ。」

フラフラとおぼつか無い、とても頼りない足取りなのに前後左右四方八方から切り掛かる爪を避けて避けて避けて避け続け前に進みだしている。ただ、避けてはいるのは直撃に対してだけで致命的ではない斬撃には無関心に無数の裂け口を刻み込んでいる。

その悠の独特の動きに三人の男が口を揃えた。

「「「青鬼状態(アオオニモード)!」」」

ひとりは対峙している道玄、そして残りの二人は傍観している鬼の親子だ。

「鬼状態か?」

寅の問いに腕を組んで大きくうなずいた鬼の親が口をひらく。

「ああ、鬼状態のひとつだが……中身は真逆の代物だ。何度となく言ってきたが鬼状態ってのは心の臓腑の動きを最大限まで上げて圧倒的な読みと身体能力の限界突破だ。だが、青鬼状態は違う。鼓動を上げるんじゃなくて下げる。命の炎である心臓の鼓動を抑え続け、全身から力が抜け、動くこともままならぬ状態つまりは「死」へと近づいていく。その死と生の瀬戸際に達しとき……発動する。死に近づき、死の抱擁を、脳が心が肉体が生へと飛びつくのだ。それは無意識に近い紙一重の動きを生みだし、有象無象ありとあらゆる害意を回避し、また、逆に敵の死の臭いにも敏感になり敵を滅殺する……。それが青鬼状態だ。ざっくばらんに言えば、自動操縦ってやつだ。」

「普通の鬼状態もだが、青鬼状態ってのも相当からだに悪そうだな」

寅の言葉に温和だった雲水にどこか迫力がまして腕が大蛇のように息子の首に巻きついた。

「悪いなんてもんじゃねぇなぁ。鬼状態を使うには適正ってもんがある。合わねぇ奴には合わねぇが、とことん合う奴にはジグソーのピースみてぇにガッチリとハマりすぎちまうんだ。鬼状態なら限界がくれば勝手に切れちまうが、青鬼はそのまま死ぬまで止まらなくなることもある!誰が教えたんだろうなぁーー。雲山ンッ?」

首が絞めあがる間一髪のところで手首を掴んで雲山が叫んだ。

「馬鹿な!私は教えちゃいない!!」

「まぁまぁ、ちょっと落ち着いて」

一色発の鬼と鬼のつかみ合いの間に入ったのは摩耶だった。剛腕と敏腕に手を乗せて真下に叩き落とした。

ついで神姫が口を開く。

「親子で楽しんでるのはいいけど見てなくていいの?まだ、何かするらしいわよ。」
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