ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー大江戸学園:海岸ー

「ふぅ……はぁ……」

呼吸が乱れだしている。爪の牢獄に囚われ動けなくなっている。ただ、じっとしているだけで吹きすさぶる蒼龍爪が潮風と交わり、みるみる体温が低下していっている。


人間は外気温に関係なく、ほぼ一定の体温を維持する機能をもつ恒温動物である。通常、人の体温は「37℃程度」に維持されており、脳の視床下部という部分でコントロールされている。

寒いときに体が震えたり、暑いときに汗をかいたりするのは、視床下部からの指令によって、筋肉や血管、汗腺などが反応しておこる体温調節機能の症状だ。

体温が「37℃」というと、微熱と思われがちですが、人間の細胞が代謝を活発に行い、なおかつ細胞が破壊されないちょうどいい温度は37℃と考えられている。

しかし、わきの下や耳で行う通常の体温測定では、外気の影響を受けるため、深部の温度「37℃」より1℃前後低くなる。このため、人間の平熱は36℃前後になっている。

なら、その体温が下がり続けるとどうなるのか?体温が異常以上に低下し、生命の危機に至る状態……それを低体温症と呼ぶ。

低体温症とは単に平熱が低い状態(低体温)とは異なり、深部の体温が35℃以下に低下した状態である。

その体温の低下の度合いによって、軽度低体温「35~32℃」、中等度低体温「32~28℃」、高度低体温「28℃以下」に分類される。

【軽度低体温症(35~32℃)の症状】

全身の震え無気力、意識がはっきりしなくなる
呼吸が早くなる。

手足の血管が収縮し、冷たく蒼白になる。

【中等度低体温(32~28℃)の症状】

震えが止まり、筋肉が硬直し始める。

錯乱し、服を脱ぎ棄てたり、意味不明の言葉をしゃべったりする。

呼びかけても反応しなくなる。呼吸が遅くなる。

不整脈が出てくる。

【高度低体温(28℃以下)の症状】

痛みを加えても反応しなくなる。

致死性の不整脈が出てくる。

自発呼吸がなくなる。


恐らくすでに軽度の低体温症を発症している。

少しでも体温をあげるためには動くべきだが、動けば爪に切り刻まれる。だが、動かなくても勝手に体温を失い意識を手放すことになるだろう……。

「終わりだ。小僧、詫びをいれたら爪牢を解いてやる」

道玄の声に……。

「……り、な…」

「聞こえんぞ。」

悠は笑った。

「やっぱり、な。おれさぁ……こぉーゆー時って、やっぱ神に愛されてんなぁ~~って確信するんだよ。最ッ高の魅せ場じゃんね。全人類ワシ掴みだよなぁ。おれ」

「なに?」

限界ギリギリまで下がった体温。おぼろげになる視界、弱まる鼓動…………条件は揃った。
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