ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー大江戸学園:海岸ー

「すっー、はっ!!」

短く空気を吸い、左右の腕ほんの少しだけ伸ばして最小限の動きで風の障壁を張る。自分の周囲を引っ掻き回している爪が突き立った。ガラスとガラスが擦りあうような神経に突き刺さってくるような嫌な音が鳴り響く。

「左右を守った程度では無意味だぞ」

道玄の言葉通り左右の防御はできても、がら空きの前後から飛んできた鋭爪がおれの皮膚を引き裂いた。

「ぐぁっ!」

たまらずその場から転がるように逃げ出すも、動けば動くほど無数の爪に切り刻まれる。おれは進むことも退くこともできず両腕で顔を守り全身を縮めて亀のように固まる。

動かなければ爪の檻に引っかかれることはないものだが……。

「弾針剄」

「ごぼっぁ!?」

動かない的に当てる。これほど簡単なこともない。内臓を抉らんばかりの威力を弾針剄が腹部にめり込んだ。

「ただの案山子だな」

ドンッ、ドンッとさらに二発。太ももと右肩を撃たれおれの身体は大きく揺れた。すると動きに反応した爪がおれの身体を引っ掻きまわされ無数に裂けた傷口から漏れ出す血液で身体が濡れたせいか妙な冷え方をしていっている。


その様子を遠巻きに見ていた神姫がいった。

「拙いわね。」

「檻が、か?」

「檻もだけど、蒼龍のもうひとつの効果がよ。」

寅はちらりと神姫の横顔を見てすぐに悠たちのほうへ視線を戻していった。

「斬撃だけじゃないと?」

「まぁね。それを説明するには蒼龍の特性から話さないとダメだけど。」

ハタハタとセンスで自分を仰ぎながら久秀が小馬鹿にするように言った。

「なら、頭から話せばいいでしょ。もったいぶらず。」

「……蒼龍は本来室内や密閉空間で最大の効果を発揮するわ。空気の刃が壁に反射して高密度の檻を作りだす。」

「あー、すまん、口を挟んで悪いんだが普通に屋外で爪の檻ってーのか?できてるんじゃないか?現に悠は針の筵ならぬ爪の筵だ。」

金剛の横ヤリにその場にいたほとんどが頷いた。同じことを思っていたらしい。

「ここには普通に拭いている風とは別に自然界の風が吹いてるでしょ」

神姫が指をさした先、それは海。

「……波風か!」

「そうよ。まぁ、それでも蒼龍爪の効果は落ちるわ。だけど、室内よりももう一つの効果が悠の身体を確実に蝕んでいっている。」

「だから、なによ。」

「動かないとしても爪は無数に飛び散って身体をかすめていってるのよ。それに傷口からは出血もしている……。濡れた身体に風が吹けばどうなるかしら?」

「……冷える?」

「そう。いま悠の体温はどんどん低下していってるわ。あのまま自律的な体温調節の限界を超えて恒常体温の下限を下回るレベルまで体温が低下すれば、身体機能にさまざまな支障を生じるようになる。」
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