ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー大江戸学園:海岸ー

右肩から斜めに刀を振り下ろされたような痛み。弾針剄が鈍痛というなら蒼龍の爪は斬痛という表現がぴったりだ。

ほんの一瞬、冷たい物が走ったかと思うと皮膚の内側から液体が溢れ熱にも似た痛みが駆ける。……なんて他人事のように浸っている場合ではない。

奥歯を噛みしめて前面の筋肉を絞り傷口をふさいだ。恐らく三センチ以上の深さで切れている……。だが、逆に考えるならば「直撃」を受けても致命傷にはならないということだ。

弾針剄の直撃よりはマシだ。

「弾針剄を受けるよりはマシ……とでも思っているわけではないだろうな?」

「……!!」

おれは息を飲んだ思考を先読みされた……。

「蒼龍の本質を味わえ。」

道玄は右手の人差し指と中指だけを立てて何度も何度も空を切る。シンプルイズベストとでもいえば洒落ているのかもしれないが、眼前に広がりながら向かい来る無数の空気の爪。

その数は弾針剄連射の比ではない。

しかし……やたらめったら撃ち放ったわりに命中精度はそれほどでもないらしい。それに一発一発の威力はさっき受けたものとは段違いで拳で叩けば崩せるほど脆い。

本質ってのはこんなもんか。これならば神姫に当てられたものの方が何十倍も効く。それを察したのか奴は大きく腕を振って大型の爪を発するが……おれから大きく逸れる。

「何処狙ってやっぁ……!?」

直後、背中に痛み、蒼龍爪の斬痛がなぜか背中に走ったのだ。掻っ切られたように前に押し出されると右、左、上、下、四方八方から爪に引っ掻き回される。

おれは両腕で顔を守って踏ん張った。するとピタリと斬撃の嵐が止む。目を凝らして敵を見据えたが、道玄はもう動いちゃいない。

だが、腕をわずかに下げた瞬間、またも爪が皮膚を引き裂いた。

これは……まさか…………爪の檻?

「蒼龍剄気功【爪獄】(そうごく)」

蒼龍の特徴は「キレ」である。ここで言う「キレ」とはスピードや瞬発力のことではなく、静止状態から瞬時にトップスピードに達する加速と、トップスピードを瞬時に静止状態に戻すフル・ブレーキング能力を指す。

その「0-100-0(ゼロ-マックス-ゼロ)」と言われる過酷な運動の核となるのは柔らかく強靭な筋肉群である。その筋肉郡から生まれる慣性エネルギーを回収して再放出するシステムを「蒼龍」と呼ぶ。

蒼龍爪は一定時間空気中に留めておくことができ、それを利用して道玄は「爪の監獄」を作り出したのだ。
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