ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂(裏)ー

右京山を店の裏に連れてきた。
家庭菜園ていどの畑には青々しいキュウリとまるすぐりの実(別名グーズベリー)に朝露を溜めてきらきらと光っていた。

春の早朝はまだすこし肌寒く、息をはくと白い蒸気が浮かんだ。
さすがに縁台なんかは裏にはないが、近くで拾ってきたプラスチックのコンテナを椅子がわりにおれたちは腰かけた。

おれはまるすぐりの実を二個もぎ取り、振り向きざまに右京山にひとつ投げ渡した。アンダーでなく、オーバーで。

ピンポン玉を摘まむようにやつは二本の指で受け止めた。
そして、そのまま口に放り込む。ワイルドな男だ。

そういえば、どこぞの王様はオーバーで投げた柿を手に吸い付けるように柔らかくキャッチしてたっけ…。
どうでもいいことを考えながらおれもまるすぐりにかぶりついた。
控えめにいっていい味だ。さすが丹精込めてつくったかいがある。
はなちゃんや新からは店より畑仕事の方が力が入ってるといわれてるけど…。

次はキュウリを食べてみるかと手を伸ばしたとき右京山がいった。

「お前、タフだな。」

「なにが?」

「一週間くらいはまともに歩けなくするくらいの気持ちで殴ったんだけどな。飄々(ひょうひょう)としてやがる」

「そう見えてかなり無理してるんだよ。現にいまだって首は痛い。」

右京山は低く笑った。
なんだかムカついたので皮肉をいった。

「っで、今日はボコボコにした相手をわざわざ見舞いにでもきたのか?」

「いや、もちろん違う。うちの御前はどうもお前のことを気に入らないらしい。だから、ちゃんと望むような結果をだしに仕事しに来たわけさ。」

朝から仕事熱心なやつだ。背後で右京山が立ち上がる気配を感じておれはちいさくため息をついた。

「どうしてそこまで天狗党なんかについてるんだ?」

「金の羽振りがいいからだ。別に恩義や理念に共感してはいない。ついでにいえば、小鳥遊、お前と闘うのは命令は建前、ほとんどは俺の個人の意思だ。それに……」

最後のほうがよく聞き取れなかった。おれは振り返り右京山を真っ正面に見ていった。

「おれはさどっちかといえば無血の平和主義なんだが…。このままボコられたらまた、新に泣かれたりしたらたまらないし。」

拳を握って構える。
右京山はすでにボクシングのスタイルに入ってステップを刻んでいる。

「なんだ、女に泣かれたくないからが理由か?」

「まぁな。けど、きっとそれは建前なんだよ。本当はおれの中にあるしみったれたカスみたいなプライドがなお前にやり返せっていってくるんだよ。」

「ふふ、ははは。おもしれぇ。上等じゃねぇか!!」

砂ぼこりをあげながら右京山は例の波打つような歩方で一気に間合いをつめて、右ストレートを顔面めがけぶちこんできた。
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